35.アブルード国へ 5
マサトは用心の為、リビングでなくフィーナの部屋で話そうと提案する。
部屋に行くとフィーナはベッドに腰を下ろした。
向かい合う椅子にマサトが座る。
話す時によく使う形式だ。
マサトは注意深くフィーナを観察した。
細心の注意を払っていた。
グレムハイド伯爵邸の後、フィーナとは意識下の会話を減らしていたし、感情や意志が伝わらないよう、注意していた。
主と伴魂の意志の疎通は、激情でない限り、相手に伝えようとしなければ伝わらない。
密かにマサトが考えていたことも、自分で考えているだけなら、フィーナも知らないはずだ。
なのに、なぜ。
「そんな顔しないでよ」
自分を探るように見つめるマサトに、フィーナは肩をすくめた。
「どうしてわかったのかって顔してるけど。
簡単よ。
私も同じこと考えてたから」
何か手だてはないか。
考えた結果、アブルード国で探すのが最善だと思えた。
――最善だが、得策ではない。
人探しがどれほど大変か、フィーナもドルジェで経験している。
小さな村でも、皆が善人ではない。
裕福な子を連れ去って、金銭を要求する事件もあった。
事件を知ってフィーナもマサトと極秘裏に探した経験もある。
フィーナは家に居て、マサトは村中を駆けまわり、互いに意志の疎通で話しながら捜索したが――その間に、子供は一人で家に帰っていた。
子供が言うには、連れ去られ、どこかに閉じ込められ、泣きつかれて寝ていたのだが、目が覚めると家の側にいたという。
子供の記憶に従って、閉じ込められていた小屋に村の警備兵達が向かうと、そこに犯人たちが縄で縛られて、のびていた。
犯人らを捕縛し、子供を家に返した輩がいる――。
それが誰の仕業か、調べてもわからなかった。
その経験から、フィーナとマサトは人探しの困難さと、自分たちの無力さを改めて知ったのだった。
住み慣れた村でも困難なのだから、初めて行く国ではもっと難しいはずだ。
わかっている。
わかっているが。
マサトに気付かれないように、アブルード国に行く算段を考えていた。
グレムハイド伯爵邸を訪問した後、無機質無感情であったのも、マサトに感情が伝わらないようにした対策だった。
そうして独自に調べている時――ふと。
本当に、ふっと。
マサトも同じではないかと思えたのだ。
マサトも、アブルード国へ行く手段を調べているのではと。
フィーナがマサト対策をしていたように、マサトからも意志の疎通が極端に減っていた――。
マサトが隠しているのは、一人で行こうと考えているからだろう。
だったら。
ローラからスヴェイン皇国行きの話を聞いて、見切り発車となるが、話を切り出したのだ。
本当はマサトを説得できるほどの材料を揃えたかったのだが。
「アブルード国のことも、ちゃんと調べてたから」
『調べた?』
フィーナの言葉に、マサトは眉をひそめた。
ありえないと思った。
この国、サヴィス王国とアブルード国は交流がなく、知りえる情報も少ないはずだ。
それでアルフィードを探せるとは思わないはずだが。
マサトの懸念に気付いたのだろう。
フィーナは肩をすくめた。
「卒業近くなったら話すつもりだったけど、もう、いいよね。
ローラ様に「卒業後に考えた」って言ったの、マサトは話を通しやすくするための嘘だと思ったみたいだけど、本心よ。
貴院校卒業したら、マサトと一緒にアブルード国に渡るつもりだったの」
『――――。
――――。
――――なんだって?』
告げるフィーナに、マサトは長い沈黙の後、そう告げたのだった。
アブルード国へ行く。
フィーナがそう考えていたこと自体、マサトは知らない。
話題になったこともなかったし、意識下で感じたこともなかった。
だいたいだ。
『自分を狙ってるヤツがいるとこに、わざわざ行かなきゃならないんだ?』
アブルード国へ行こうとする理由がなぜか、まったくわからない。
アブルード国行き。
フィーナは前から考えてました。
その為、調べていました。
昨日今日、寒くてお布団からなかなか出られず、更新が遅くなりました……。




