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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第九章 アブルード国の思惑
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35.アブルード国へ 5


 マサトは用心の為、リビングでなくフィーナの部屋で話そうと提案する。


 部屋に行くとフィーナはベッドに腰を下ろした。


 向かい合う椅子にマサトが座る。


 話す時によく使う形式だ。


 マサトは注意深くフィーナを観察した。


 細心の注意を払っていた。


 グレムハイド伯爵邸の後、フィーナとは意識下の会話を減らしていたし、感情や意志が伝わらないよう、注意していた。


 主と伴魂の意志の疎通は、激情でない限り、相手に伝えようとしなければ伝わらない。


 密かにマサトが考えていたことも、自分で考えているだけなら、フィーナも知らないはずだ。


 なのに、なぜ。


「そんな顔しないでよ」


 自分を探るように見つめるマサトに、フィーナは肩をすくめた。


「どうしてわかったのかって顔してるけど。

 簡単よ。

 私も同じこと考えてたから」


 何か手だてはないか。


 考えた結果、アブルード国で探すのが最善だと思えた。


 ――最善だが、得策ではない。


 人探しがどれほど大変か、フィーナもドルジェで経験している。


 小さな村でも、皆が善人ではない。


 裕福な子を連れ去って、金銭を要求する事件もあった。


 事件を知ってフィーナもマサトと極秘裏に探した経験もある。


 フィーナは家に居て、マサトは村中を駆けまわり、互いに意志の疎通で話しながら捜索したが――その間に、子供は一人で家に帰っていた。


 子供が言うには、連れ去られ、どこかに閉じ込められ、泣きつかれて寝ていたのだが、目が覚めると家の側にいたという。


 子供の記憶に従って、閉じ込められていた小屋に村の警備兵達が向かうと、そこに犯人たちが縄で縛られて、のびていた。


 犯人らを捕縛し、子供を家に返した輩がいる――。


 それが誰の仕業か、調べてもわからなかった。


 その経験から、フィーナとマサトは人探しの困難さと、自分たちの無力さを改めて知ったのだった。


 住み慣れた村でも困難なのだから、初めて行く国ではもっと難しいはずだ。


 わかっている。


 わかっているが。


 マサトに気付かれないように、アブルード国に行く算段を考えていた。


 グレムハイド伯爵邸を訪問した後、無機質無感情であったのも、マサトに感情が伝わらないようにした対策だった。


 そうして独自に調べている時――ふと。


 本当に、ふっと。


 マサトも同じではないかと思えたのだ。


 マサトも、アブルード国へ行く手段を調べているのではと。


 フィーナがマサト対策をしていたように、マサトからも意志の疎通が極端に減っていた――。


 マサトが隠しているのは、一人で行こうと考えているからだろう。


 だったら。


 ローラからスヴェイン皇国行きの話を聞いて、見切り発車となるが、話を切り出したのだ。


 本当はマサトを説得できるほどの材料を揃えたかったのだが。


「アブルード国のことも、ちゃんと調べてたから」


『調べた?』


 フィーナの言葉に、マサトは眉をひそめた。


 ありえないと思った。


 この国、サヴィス王国とアブルード国は交流がなく、知りえる情報も少ないはずだ。


 それでアルフィードを探せるとは思わないはずだが。


 マサトの懸念に気付いたのだろう。


 フィーナは肩をすくめた。


「卒業近くなったら話すつもりだったけど、もう、いいよね。

 ローラ様に「卒業後に考えた」って言ったの、マサトは話を通しやすくするための嘘だと思ったみたいだけど、本心よ。

 貴院校卒業したら、マサトと一緒にアブルード国に渡るつもりだったの」


『――――。

 ――――。

 ――――なんだって?』


 告げるフィーナに、マサトは長い沈黙の後、そう告げたのだった。





 アブルード国へ行く。


 フィーナがそう考えていたこと自体、マサトは知らない。


 話題になったこともなかったし、意識下で感じたこともなかった。


 だいたいだ。


『自分を狙ってるヤツがいるとこに、わざわざ行かなきゃならないんだ?』


 アブルード国へ行こうとする理由がなぜか、まったくわからない。






アブルード国行き。

フィーナは前から考えてました。

その為、調べていました。


昨日今日、寒くてお布団からなかなか出られず、更新が遅くなりました……。

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