33.アブルード国へ 3
フィーナの「助けになれば」その思いから始まったダルメルの薄藍インク。
波及して、想像以上の事業となり、フィーナの手から離れてしまったが。
フィーナと同じ思いの人がいると知ってほしくて、サリアは部屋にこもるフィーナに声をかけた。
無機質な表情で部屋から出たフィーナは、リビングのソファに座った。
サリアからローラのダルメル助力意向を聞いて、わずかに笑みを浮かべる。
心遣いに礼を述べて、事業はサリアの兄、フェードリット管轄なのでそちらに相談してほしいと告げた。
同時に、サリアに事前にフェードリットに話をして、上手くいくよう取り成してほしいとも告げた。
「それはもちろん」
サリアは頷いて――残念に思った。
ローラの「ダルメルの助けになりたい」思いを、もっと喜んでくれるかと思っていた。
いつものフィーナなら
「ローラ様! ありがと~~~!!」
……と、飛び跳ねて喜んだだろう。
少しでも、フィーナの沈んだ気持ちが浮上すればと思ったが……姉、アルフィードの所在不明の今、ダルメルの事業はフィーナにとって対岸の火事なのだろう。
ローラも、事務的なフィーナへの対応に戸惑っていた。
それはラナも同じだ。
ローラと一緒に出かけるから、しばらく会えなくなると話しても
「そう……。気をつけてね」
と、他人行儀な言葉をかけるだけなのだから。
ラナも、想定していたフィーナの言動と違ったためだろう。
戸惑いと拍子抜けとがないまぜになった、微妙な表情を浮かべていた。
ラナへの対応にはサリアもムッとした。
アルフィードへの心配はわかるが、アルフィードの件は内密にされている。
事情を知らないラナへ、その態度はないのではないか。
「一月会えないのよ? それだけ?」
「一月? そんなに長く?」
サリアの言葉にフィーナは首をかしげる。
「学校、休めても一週間でしょ?」
ドルジェに文献探しに行った時、そう聞いていた。
「「――あ……」」
言われて、サリアとラナは理解した。
フィーナは自室にこもっていたから、ローラとラナの買い付け話を聞いていない。
サリアは誤解を謝って説明した。
「布の買い付けに、ローラ様と一緒にスヴェイン皇国に行くの。
それで一月は貴院校を休学するの。
貴院校側も条件付きながら了承済みよ」
「スヴェイン――皇国?」
無機質だったフィーナの瞳に、生気の火種が揺らめいた。
フィーナの小さな変化に誰も気付いていない。
「前々から目をつけてたモンがあってな。
国内にもあるんやけど、生産が追いつかんのや。
下調べも下準備も商談の日程もつけてあんねん。
この機会に話詰めよ思うてな。
布の最終確認に、ラナに同行してもらうんや」
取り寄せた見本で確認しているが、現地で生産過程、実物を見て最終判断するのだと、ローラは告げた。
ローラの話を聞きながらも、フィーナは別の事に思慮を巡らせつつ、旅の無事を祈って、別れを惜しんでいた。
――の、だが。
翌日。
ローラとラナは、フィーナに呼ばれて、再び寮室に足を運んだ。
内々の話の場として、フィーナは自分の寮室が適切だろうとの考えで、本来、フィーナが出向く立場ながら、ローラとラナに足労願った。
招かれたローラとラナ、フィーナの同室者であるサリアは事情を知らない。
サリアに至っては、招かれたローラとラナを見て、フィーナが招いたと知った次第だ。
フィーナの伴魂、マサトも事情を知らない。
自分も知らないうちに話を進めたフィーナに、マサトは驚きと懸念を抱きつつ、同席した。
ローラとラナはマサトが話せると知らないので、フィーナの伴魂として側にいる。




