表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第二章 セクルト貴院校
41/754

13.スーリング祭の準備【ダンスの練習】


「なっ、なぜ! そんな簡単なこともできないんだ!?」


 セクルト校内のダンスの修練場で。


 息を上げながら声を荒げるカイルに、フィーナは堪忍袋の緒が切れる音を、脳裏の奥で感じた。


「できるわけないじゃないっ!」


 爆発したフィーナを、付き添っていたザイルもサリアも「仕方ない」的な心地で見ていた。


 ぶつけられた本人だけが、想定外のフィーナの言動に面食らっていた。


 スーリング祭でのダンスをカイルと練習していた折。


 告げられる苦言の数々に、フィーナの我慢は限界を達したのであった。



       ◇◇          ◇◇



「明日の放課後、ダンスの実習室に」


 不機嫌を顔に張り付けたカイルに告げられたのは、一日の授業を終えた、まさにその時だった。


 告げられたフィーナは、目を瞬かせて周囲を見渡した。


 寮に戻る身支度を整えている時分に、隣の席のカイルがフィーナの傍らに立って、ぼそりとつぶやいた。


 独白ともとれるつぶやきだった。――カイルがフィーナの側に立ち、見下ろしている状況でなければ、独り言として聞き流していただろう。


 もしや自分に言われたのだろうか。


 人違いを考えて周囲を見渡したが人影はない。


 フィーナが戸惑っている間に、カイルは返事を聞くこともなく、その場を後にしていた。


 戸惑いながらも、フィーナは迎えに来たザイルにカイルが告げた内容を話すと「ふむ」と考えたザイルは同行すると告げた。


 ザイルに同室のサリアにも伝えておくようにとも言われた。


 帰りが遅くなるだろうから、心配させないようにとの配慮だった。


「殿下と?」


 話を聞いたサリアも少々考えて「同行する」と言いだした。


 スーリング祭の件だろうと、鈍いフィーナにも察しはついていたので、サリアの同行はありがたい申し出だった。


 サリアも貴族の嗜みとしてダンスの享受を得ている。先達者が同行してくれるのは心強かった。


 オリビアがスーリング祭の準備で部屋を訪れた際、カイルから練習の誘いがあるだろうと聞いていた。


 最初の数曲はエスコートするカイルと踊る事になるので、練習していたほうがいいだろうとの話だった。


 フィーナとしては気が進まない相手だったが、他にスーリング祭に参加する新入生がいないので、選択の余地はない。


 自分を厭う相手と行動を共にすることを考えると、気が重くなった。


 そうした翌日、迎えに来たザイルと共にクラスの違うサリアと待ち合わせをして、ザイルに案内されてダンスの実習室へと足を運んだのだが。


「どの部屋です?」


 ザイルが案内したのは、普段、授業を受ける校舎を出て、東側に配された建物だった。


 何階あるのかと見上げる大きな造りの建物は、内部に足を踏み入れて「何部屋あるの?」と驚く広さを要していた。


 聞けば、ダンスの実習室だけでなく、様々な多目的室があるのだという。


 ザイルに聞かれて、フィーナは「え」と驚いた。


「一部屋じゃないの?」


「どの部屋か、聞いてないの?」と、サリア。


 フィーナは頷いて「放課後、実習室に」と聞いただけだと告げた。


 サリアとザイルは顔を見合わせて呆れていた。


「ごめんなさい」


 自分の思慮の足りなさを恥じるフィーナに、二人は首を横に振る。


「違うの。カイル――殿下の配慮に呆れてるの」


 フィーナは実習室の存在を知らなかった。


 実習室は生徒に開け放たれているが、事前に申込が必要だ。


 カイルが段取りしたのだから、部屋がいくつもあったのは知っていただろう。


 どの部屋かを伝えなかったのは、カイルの落ち度だ。


 結局、一部屋一部屋、ノックして確認するという、非常に手間取る方法をとる事になった。


 カイルが準備した部屋にたどり着いたのは、六部屋目を確認した時だった。


 扉を開けて応対したのは、カイルではない青年だった。


 ザイルより年下の、カイルより年上の、そんな年頃だ。


 彼はフィーナとザイルを見て、中に招き入れてくれた。


 学び舎の教室一部屋ほどある広さの修練場には、カイルとドアを開けてくれた青年、それともう一人いた。


 ドアを開けてくれた青年も、カイル以外のもう一人も、護衛なのだろうと想定できる。


 二人とも、ザイルと似た騎士然とした衣装に身を包んでいた。


 ザイルとも顔見知りらしい挨拶も交わしていた。


「遅い!」


 腕を組んでふんぞり返るカイルは、入室した3人に開口一番そう告げる。


 フィーナはザイルとサリアが同行すると、あらかじめ話してカイルから了承を得ていた。


「どれほど待たせる! 授業を終えてだいぶ経っているぞ!」


 唐突なカイルの物言いに、フィーナは内心むっとしていた。


 時間がかかったのはカイルが伝えた情報不足の為ではないか。


 さすがに「王太子殿下」とわかった今、フィーナはぐっと我慢していたが、隣にいたザイルがため息交じりに告げてくれた。


「殿下がどの部屋か、伝えてくれていればもっと早く着けたのですが」


 暗に「聞いてなかったから時間がかかった。言ってないそちらのせいでは?」と含んだ物言いをしている。


 それを聞いた護衛二人も「え」と驚いていた。


「どの部屋か、伝えていなかったのですか?」


「そりゃ、殿下が悪い」


 二人はカイルと親しいようだ。


 二人の言葉に、カイルも自身に否があると思い至ったのだろう。


 が、認めたくなかったようで「聞かない方が悪い!」などと言いだす。


 フィーナもザイルもサリアも「無茶振りだ」と思いつつ、権力者に立てつくのは賢明と思えなかったので、そこは敢えて何も言わずにいた。


 それからフィーナとカイルの舞踏の練習が始まった。


 ……のだが。


 フィーナは舞踏会のダンスで用いられる基本的な足運びや姿勢は、ザイルとアルフィードに教わっていたが、あくまで基本中の基本だ。人と踊れるものではない。


 結果、何度もカイルの足を踏んでしまうし、よろけて転びそうになってしまう。


 カイルはザイルから事前に、踏まれても衝撃を和らげる細工を施した靴を渡されていた。


 履き替えるよう勧められ、首を傾げながら言われるまま従ったおかげで、何度も足を踏まれても、何も施されていない靴よりましな状態であった。


 それでも、踊りがままならないのは変わりない。


 フィーナは間違えるたびにカイルに叱責され、ののしられ続けた。それでも指導があるのならフィーナも我慢できた。


 カイルは失敗を叱責するだけで「どこをどうしたらいい」とは話してくれない。


 スーリング祭に参加することになった事情を知っているだけに、フィーナも我慢の限界に達して、冒頭のように、怒りを爆発させたのだ。




スーリング祭の準備です。

フィーナ、我慢できずに爆発しちゃった回です。

アルフィードなら相手の苛立ちを受け入れてそつなくこなし、時間をかけて相手を認めさせるでしょうが、フィーナは我慢ができずに爆発してます。

姉妹ながら性格が違うとこかなぁ。と思いながら書いてました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ