15.攫われたアルフィード 1
◇◇ ◇◇
「フィーナ」
事前に伺いもなく、オリビアがフィーナの寮を訊ねたのは、スーリング祭から三日目の早朝だった。
授業が始まる前、訊ねてきたオリビアを、フィーナは驚きながら迎えた。
同室のサリアもオリビアとは顔見知りなので、緊張しながらも寮室に招き入れる。
寮室内に招かれたオリビアは、室内を見回した後、フィーナに訊ねた。
「アルフィード、来てない?」
「おね――姉ですか?」
聞かれて、フィーナは首を傾げる。
同室のサリアにも目配せして訊ねたが、サリアも首を横に振る。
「来ていませんけど――何かありました?」
聞かれたオリビアは、躊躇しつつ、状況を話した。
スーリング祭の後から、アルフィードを見ていないと。
通常と異なる行動をする際――実家に帰る等――には、あらかじめ伺いがあるのだが、今回はそれもない。
スーリング祭の時期だったため、妹の元ですごし、伝言を頼んでもすれ違いになったのではと、一昨日のオリビアは思っていた。
しかし昨日もアルフィードの所在が分からない。
連絡もない。
オリビアも不審に思って、フィーナを訪問したしだいだった。
フィーナもアルフィードの所在を知らないと知って、オリビアの緊張が高まる。
事情をわかりかねるフィーナも、アルフィードの所在不明に不安を感じた。
もしかしてと早急便を走らせて、実家に帰っていないかと確認したが、実家にも帰っていないという。
アルフィード捜索が行われる中。
スーリング祭の四日後、事が急展開する。
アルフィードの伴魂が、単独で隔離されていた。
場所は、王城宮廷の庭の一角。
庭の木につるされた木箱がバサバサとうるさく、鳥の声も聞こえるからと、対応した面々がこわごわと開けた箱内に、アルフィードに伴魂が閉じ込められていた。
ピーピー、鳥の声で騒いでいる鳥がアルフィードの伴魂とわかって保護されて。
すぐさまオリビアの元へ届けられた次第である。
オリビアはディルク同席の元、フィーナを招集した。
サリアとカイルも同席している。
フィーナの伴魂、マサトは伴魂同士、話を理解できると聞いていたので、事情を聞き出せないかと考えたのだ。
フィーナは困った。
「マサト、スーリング祭の後から、どこか行っちゃってて……」
「伴魂でしょう? なぜ一緒に――。
――いえ、普通の伴魂ではなかったわね」
「どこに居るかもわからないほど、遠いのですか」
ディルクの問いに「ん~~~……」と、フィーナは目を閉じてマサトの感覚を探ってみた。
「――……あれ? 結構近い?」
そんな話をしていると、扉を叩く音がした。
火急でない限り呼ばないように。
そう申しつけていたところへのノックに、オリビアはあからさまに眉を寄せたが――。
「あ。マサトだ」
「え?」
フィーナの言葉に、ディルクが慌てて扉を開く。
開いた扉からするりと白い猫が入ってきた。
扉が閉まり、面々を確認してから、マサトは口を開いた。
『呼んだか?』
言いながらフィーナの元へ歩いている時だった。
赤い何かが面々の視界を素早く横切ったと思った時には。
「ピィピィビィィィィイイイイッ!!」
羽でバサバサと、嘴でカカカ、と。
怒り狂ったアルフィードの伴魂が、マサトに襲いかかったのだった。
突然の――思ってもいなかったアルフィードの伴魂の行動に、誰もが呆気にとられた。
『うわ!? 何だよいきなり――っ!
っ、いて!
いてててて! やめろって!』
羽でバサバサ叩かれ、嘴で体のあちこちをつつかれるマサトは、逃げようとするも追いかけられる。
(――『アンタのせいで、アンタのせいで!』)
『何なんだよいったい!』
伴魂同士のワチャワチャした騒動に、呆気にとられていた面々も我に返った。
鳥の伴魂の扱いに慣れているディルクが、場を鎮めるために仕方なくアルフィードの伴魂を捕まえる。
ディルクの手の中でも、アルフィードの伴魂は声を上げて暴れていた。
所在不明のアルフィードに関して、話が進んでいきます。




