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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第九章 アブルード国の思惑
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11.二年度の始まりとスーリング祭 11


 マサトは終始、不機嫌顔だった。


 インクに関して「フィーナの発案」と言ったフェードリットに、マサトが答えた。


『案の起源を重要視するなら発案は俺だろうな。

 つっても、向こうの世界と同じようにしただけだが。

 フィーナとサリアに教えたのは俺だ』


 フェードリットはマサトの言葉を聞いて、笑顔のまま硬直した。


 硬直したまましばらく静止して。


「――――。

 ――――。

 ――――え?」


 と、首を傾げたのだった。





『サリアのにーちゃん、俺のこと、どこまで知ってるんだよ』


 硬直するフェードリットを前に、ひそひそ話が続く。


 マサトの言葉に、サリアは首を横に振った。


「知っているとも知らなかったの。

 話は父で止まると思っていたから――」


 ガブリエフがフェードリットに話していたのなら、先を見越してのことだろう。


 何かあったとき、フェードリットも知っていた方が、話がつきやすいとの思惑だと。


 フェードリットがマサトの事を知っているなら「人語を話す」「異世界転生者」とも理解していると思っていたのだが。


 フェードリットの様子を見る限り、後者への理解はないようだ。


 フェードリットに「異世界転生者」の理念を理解を得るのに時間がかかった。


 ガブリエフはその事を想定して「当人と会った時に理解すればいい」としていた節がある。


 時間をかけてフェードリットにマサト理解を得て、インクに関しても理解を得られた。


 マサトは言う。


『俺の指導方法が、インクの始まりだ。

 この世界って、インクは黒一色だろ。

 それで勉強するの、効率が悪いと思えてな。

 直に教えてるフィーナとサリアは使ってるが――色インクを自作させて、勉強の仕方、教えてる。

 他には言わない見せない教えない前提でな』





 フェードリットとしては『勉強の方法を教えている』に関しても眉つばだった。


 実際、フィーナとサリアの自学ノートを手にすると――声を失って、ノートを掴む手に力がこもった。


 自分が学んでいた時と異なるノートのとりかた。


 一目見て主要部分を見極められる構成。


 ダルメルの件で、藍色の色インクを取りざたしたが――。


 二人のノートは、藍色以外にも色インクを用い、後で見返した際、わかりやすいようにされていた。


 赤、朱色、青、緑、黄色、桃色――。


 そうした色インクを駆使したノートを前にしては「薄藍色インクの利益」もかすんでしまう。


 フィーナには「価値の高い品」との意識がないのだ。


 それより。


「作るの大変だから、お店で買えれば助かります」


 それがフィーナの気持ちだった。


 フィーナの提案に、ダルメル側も飛びついた。


 そうして思考錯誤しつつ、話を詰めていき。


 スーリング祭での小芝居となったのである。



 運用される際の懸念事項も話し合われた。


 フィーナとマサトが譲れない部分、ガブリエフとフェードリットが実務上難しいと互いに譲らない部分もあったが、結局フィーナとマサトの要望が通る形となった。


「使途不明金を許さない」


 フィーナとマサトはその点を強く主張した。


 罰則も設けたほどだ。


 人々の善意が食い物とされるのを、フィーナもマサトも防ぎたかった。


 使途不明金を許すのなら、この話はなかったことにとフィーナとマサトは言う。


 この件を運用してみたいガブリエフとフェードリットは「困難」だと思いつつ、フィーナとマサトの意向に従うしかなかった。


 そうして始まったダルメルの事業は成功を修めたうえ、国に「災害助成金積立金」なる項目を作る業績にも繋がったのである。





 スーリング祭が始まる一週間ほど前。


 小芝居の打ちあわせをする中、サリアがフィーナを心配した。


「目立ちたくないって言ってたけど……いいの?」


 上手く行けばダルメルのためになるだろうが、フィーナが注目を浴びるのは目に見えてる。


「う~……。できれば目立ちたくないけど……」


 苦笑して、フィーナは肩をすくめる。


「誰かの役に立てるのならいいよ。

 セクルト卒業するまでの我慢だし」


「なになに? 卒業後の話? 僕の所においでよ。

 仕事は大変だけど、給金ははずむよ~」


 フェードリットの誘いに、フィーナは「あはは」と渇いた笑みを浮かべる。


「卒業後は実家の薬屋を手伝おうと思ってますので」






ストック溜まってるので、今日ももう一つ更新する予定です。

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