11.二年度の始まりとスーリング祭 11
マサトは終始、不機嫌顔だった。
インクに関して「フィーナの発案」と言ったフェードリットに、マサトが答えた。
『案の起源を重要視するなら発案は俺だろうな。
つっても、向こうの世界と同じようにしただけだが。
フィーナとサリアに教えたのは俺だ』
フェードリットはマサトの言葉を聞いて、笑顔のまま硬直した。
硬直したまましばらく静止して。
「――――。
――――。
――――え?」
と、首を傾げたのだった。
『サリアのにーちゃん、俺のこと、どこまで知ってるんだよ』
硬直するフェードリットを前に、ひそひそ話が続く。
マサトの言葉に、サリアは首を横に振った。
「知っているとも知らなかったの。
話は父で止まると思っていたから――」
ガブリエフがフェードリットに話していたのなら、先を見越してのことだろう。
何かあったとき、フェードリットも知っていた方が、話がつきやすいとの思惑だと。
フェードリットがマサトの事を知っているなら「人語を話す」「異世界転生者」とも理解していると思っていたのだが。
フェードリットの様子を見る限り、後者への理解はないようだ。
フェードリットに「異世界転生者」の理念を理解を得るのに時間がかかった。
ガブリエフはその事を想定して「当人と会った時に理解すればいい」としていた節がある。
時間をかけてフェードリットにマサト理解を得て、インクに関しても理解を得られた。
マサトは言う。
『俺の指導方法が、インクの始まりだ。
この世界って、インクは黒一色だろ。
それで勉強するの、効率が悪いと思えてな。
直に教えてるフィーナとサリアは使ってるが――色インクを自作させて、勉強の仕方、教えてる。
他には言わない見せない教えない前提でな』
フェードリットとしては『勉強の方法を教えている』に関しても眉つばだった。
実際、フィーナとサリアの自学ノートを手にすると――声を失って、ノートを掴む手に力がこもった。
自分が学んでいた時と異なるノートのとりかた。
一目見て主要部分を見極められる構成。
ダルメルの件で、藍色の色インクを取りざたしたが――。
二人のノートは、藍色以外にも色インクを用い、後で見返した際、わかりやすいようにされていた。
赤、朱色、青、緑、黄色、桃色――。
そうした色インクを駆使したノートを前にしては「薄藍色インクの利益」もかすんでしまう。
フィーナには「価値の高い品」との意識がないのだ。
それより。
「作るの大変だから、お店で買えれば助かります」
それがフィーナの気持ちだった。
フィーナの提案に、ダルメル側も飛びついた。
そうして思考錯誤しつつ、話を詰めていき。
スーリング祭での小芝居となったのである。
運用される際の懸念事項も話し合われた。
フィーナとマサトが譲れない部分、ガブリエフとフェードリットが実務上難しいと互いに譲らない部分もあったが、結局フィーナとマサトの要望が通る形となった。
「使途不明金を許さない」
フィーナとマサトはその点を強く主張した。
罰則も設けたほどだ。
人々の善意が食い物とされるのを、フィーナもマサトも防ぎたかった。
使途不明金を許すのなら、この話はなかったことにとフィーナとマサトは言う。
この件を運用してみたいガブリエフとフェードリットは「困難」だと思いつつ、フィーナとマサトの意向に従うしかなかった。
そうして始まったダルメルの事業は成功を修めたうえ、国に「災害助成金積立金」なる項目を作る業績にも繋がったのである。
スーリング祭が始まる一週間ほど前。
小芝居の打ちあわせをする中、サリアがフィーナを心配した。
「目立ちたくないって言ってたけど……いいの?」
上手く行けばダルメルのためになるだろうが、フィーナが注目を浴びるのは目に見えてる。
「う~……。できれば目立ちたくないけど……」
苦笑して、フィーナは肩をすくめる。
「誰かの役に立てるのならいいよ。
セクルト卒業するまでの我慢だし」
「なになに? 卒業後の話? 僕の所においでよ。
仕事は大変だけど、給金ははずむよ~」
フェードリットの誘いに、フィーナは「あはは」と渇いた笑みを浮かべる。
「卒業後は実家の薬屋を手伝おうと思ってますので」
ストック溜まってるので、今日ももう一つ更新する予定です。




