4.森での伴魂捜索
村人が有する伴魂のほとんどは、隣接する森の住人だ。
伴魂となりうる小動物を売買することで生計を立てる者も存在する。
生業とする者から購入すると、多額の金銭が必要となるので、自力で取得する村人がほとんどだった。
森の中を子供だけで探索するのは危険が大きい。
なので、フィーナが森へ行く際には父の弟である叔父のカシュートが付き添っていた。
父のリオンとしては自分が同行したかったのだが、家業である薬屋が母ロアだけでは立ち行かないので、渋々弟に頼んだ次第だ。
カシュートもリオンに降ろす薬草を採取するのに連日森に入るので、兄と兄嫁、姪っ子の申し出を快諾した。
鬱蒼と繁る植物の間を歩いていると、フィーナが目にする物についてひっきりなしに尋ねてくる。
当初、おもしろがって答えていたカシュートだったが、単なる雑草に同じ答えを繰り返すのもつらくなって、乾いた笑いを洩らしながらフィーナに告げた。
「薬草より、伴魂捜したいんだろ? 植物より、動物捜さないと」
「あ! そうだった!」
言われてフィーナは植物から小動物に目を向けた。
カシュートは姪っ子を肩車して歩いている。
カシュートの苦言を受けてからはフィーナは森の小動物に目を向けていた。
カシュートも小動物を意識していた。
薬草は常日頃目にしているし採取しているので、群生地も数量も大方把握していて、意識せずに収穫できる。
薬草がついで、メインはフィーナの伴魂候補探しだったが、今のところフィーナの所望する大前提をクリアする小動物とは対面できていない。
カシュート自身、フィーナの伴魂へのこだわりを聞いて「ムリだ」と思っていた。
アルフィードの件がなければ即刻却下していたのだが、身近な特異例があるだけに、むげにできない。
どうしたものかと思案しつつ、生計のために薬草を採取しつつ(これはほぼ無意識に)、姪っ子を気遣いつつ。
そうして小児校が休日の時、森に連れ立って出かけるのが通例となりつつあった。
薬草が群生する場所に遭遇すると、カシュートはフィーナを肩から下ろして採集に専念する。
フィーナも叔父の仕事を理解していたので、採集している間は側で薬草を見聞していた。
そうしながら薬草についての知識を少しずつ得ていた。
それはカシュートがリオンから頼まれたことでもある。
万が一、期限内に伴魂が取得できず、試験が不合格になっても、家業を継ぐ分には支障はないだろう。
薬屋の顧客は村人がほとんどだ。
彼らなら事情を知っているので薬屋を生業としても受け入れてくれるだろう、と。
フィーナの前途を限定したくなかったが、仕方ない。
生活していく術を準備するのも親の務めだと言ったリオンを思い出し、カシュートは傍らのフィーナを覗き見た。
採集を手伝いながら、見た目、群生している場所、匂い、手にした感触等、確かめている。
姉のアルフィードは周囲の人間が目を見張る天才肌だったが、フィーナ自身も聡い子であるとカシュートは感じている。
一つを教えれば十を理解する。
応用の幅がずば抜けていた。
リオンとロア、フィーナの両親も伴魂候補に関して調べたり独自の情報網を頼っているが、今のところ芳しい成果は得られていない。
事情を知った姉のアルフィードも捜してくれている。
現状ではアルフィードが見つけられる可能性が高いが、いかんせん時間が足りなさすぎる。
「どうしてもという時はオリビアに頼んでみる」
妹を想い、アルフィードは友人に頼る方策を提案したが、それはリオンとロアが丁重に辞退した。
オリビアとはアルフィードの友人であると同時に高貴な方でもある。
二人は身分を超えて友人として親しいのだとわかっていても、安易に頼ることは恐れ多くてできなかった。
そうは言いつつ、アルフィードはオリビアに相談しているだろう。
万が一に備えてオリビアも伴魂候補を準備してくれているはずだ。
最終的に自力では無理だったときにはリオンとロアもオリビアを頼るだろう。
カシュートもアルフィードの親族の立場で、オリビアと数回対面している。
通常、御姿を身近で拝見するのも言葉を交わすのもあり得ない立場なのだが、オリビア自身、気にしていないようだった。
フィーナの、幼子が許される身分違いを考慮しない遠慮のない接し方もオリビアは許していた。
二心なく、純真にオリビア自身を慕ってくれるフィーナを快く思っている節も見せていた。
期限内に伴魂取得できない最悪の状況は回避できるだろうと思いながら、リオンやロア、フィーナ自身、家族準備できる可能性を期待しつつ、カシュート自身もフィーナの要望に沿う小動物を捜していた。
結局、森の中で見つけられない日々が続く中。
それは唐突に訪れた。