14.集活(トゥルマ) 4
フィーナの言葉に、テレジアとカトリーナは目を見開いて口をつぐんだ。
まじまじと見つめる二人の視線を受けて、フィーナは小さく息をつく。
「私も、騎士の方々の動きはわかりませんから」
言いながら、言葉より体感してもらった方がわかりやすいだろうと、細長いタオルを三つ、用意して欲しいとカトリーナに頼んだ。
カトリーナとテレジアは顔を見合わせつつ、フィーナの要求に答えた。
渡されたタオル三枚の具合を確認して、フィーナはカトリーナに触れる許可を申請した。
カトリーナは戸惑いつつ、フィーナに許した。
フィーナはカトリーナの右腕肘を覆って、タオルを巻いた。
「腕を曲げ伸ばししてみてください」
フィーナの指示にカトリーナは従う。
タオルが肘関節部分をぐるりと包んでいた。
肘内側の異物感。それがカトリーナが受けた印象だった。
フィーナは肘関節に巻いたタオルを外すと、サリアの助けを借りて、肘部分を覆うように長くタオルを置いて、そのタオルを縛るように、二の腕側、掌側、三角形を形作るような縛り方をする。
そうしてカトリーナに肘の曲げ伸ばしをさせると、驚いて反射的にテレジアに目を向けた。
テレジアはカトリーナの視線の意味に気付かず、怪訝な表情を浮かべている。
カトリーナは戸惑いつつ、テレジアを今一度見て――彼女が理解できていないと判断すると、フィーナに目を向けた。
これを言いたかったのか。
そのような表情で。
「最初は、肘の内側に物が挟まったみたいで勝手悪かったけど。
後の縛り方は、違和感がない――」
「わかりやすいようにタオルでしましたが、実際は薄い包帯です。
それでも戦闘においては少しの感覚の違いが生死にかかわります。
私には騎士の経験がないので、指導など無理です」
騎士――。
ふとザイルを思い出した。
彼ならできそうだが――。
実家の薬屋の手伝いをしているので、包帯の巻き方は大丈夫だろう。
騎士への対処への懸念を理解したうえで、カトリーナとテレジアは「それでも」とフィーナに教えを頼んだ。
「日常生活前提でいいから。その点は私たちも処置をする方にも徹底させるから」
フィーナは懇願に折れて「週に一度、放課後の空き教室で一時間」を受け入れたのだった。
サリアに同席を求めたのは、フィーナに教えを請うため、学年副寮長であるサリアにも負担が増える可能性を考慮したためだった。
「そうならないように注意するし、負担が増えた時は遠慮なく言って。手伝うから」
サリアは了承した。もともと異論もない。
なぜなら。
「そちらの教授が無理と思った時には、止めますから」
にっこり微笑んで断言する。
頼む立場のカトリーナとテレジアは強く言えず、サリアの言葉を受け入れた。
そうした話の中、ずっとフィーナの様子を伺っていたテレジアが、我慢できずにフィーナに訊ねた。
「回復魔法は……使えますの?」
「……なして?」
唐突な質問に、フィーナは素で答えてしまう。
なぜ、そのような話になるのか。
「アルフィード様は、あなたの姉上でしょう?
アルフィード様はできると聞いています。
教えてもらったりはしなかったの?」
アルフィードが「ドルジェの聖女」と呼ばれているのはフィーナも知っている。
「聖女」と呼ばれる始まりが、回復魔法を使用したためとも噂で聞いていた。
聞いていたが、フィーナは「眉つば」「周囲の勘違い」と思っていた。
姉に確認したが「回復魔法?」と眉をひそめて、使用したことなどないと否定したからだ。
良い機会だからと、フィーナはテレジアに訊ねた。
「ドルジェの聖女」と呼ばれる経緯となった話がどんなものか、教えてもらった。
サリアとカイルに聞いても、二人の個人的感情が入りすぎて、二人の話に整合性がとれなかったことも「眉つば」「勘違い」とフィーナが判断した理由でもある。
テレジアはアルフィードと面識も少なく、客観的な話が聞けるだろうと思ったのだ。
テレジアの話はこうだった。
文化祭で、企画した実験で爆発が起き、生徒が負傷した。
クラスが近かったアルフィードとオリビアが駆けつけて、生徒の手当てを行った。
 




