12.集活(トゥルマ) 2
「あの……」
フィーナが我慢出来ずに前に出た。
「包帯、巻きましょうか」
医師と助手にはフィーナも「貴院校の生徒」のくくりとなる。
その生徒からの申し出に、二人は目を瞬かせた。
二人の戸惑いに気付いたフィーナは「実家が薬屋です。ドルジェ村で薬屋を営んでいます」と素性を明かした。
市井の薬屋の子なら、家業を手伝う関係で包帯巻きも経験しているのでは。
そうした判断の元、医師と助手はフィーナの申し出を受理した。
フィーナは任された箇所を的確に処置していった。
後に救護班二人に、フィーナは多大な感謝を受けたのだった――。
カトリーナの魔法大会話を聞いたフィーナは「だから?」と首を傾げた。
「手当の指導をお願いしたいの」
柔らかな笑みを浮かべて告げるカトリーナに、フィーナは「……えっと……」と答えに窮した。
「保険医の先生か、医学に明るい方に教鞭を願った方がいいと思います」
「どちらも検討した結果、あなたにお願いしたいとの結論になったの」
「え? ……え? どうしてですか?」
カトリーナは怪我に効率的な包帯の巻き方を知りたいという。
「貴院校では体を酷使する授業はないでしょう?
スポーツ主体の集活もあるけれど、楽しむ程度で無理はしないわ。
保険医の先生は、怪我を見る機会はほとんどないのよ。
あなたの言うように、医学に明るい方にも聞いてみたけど、病の治療法は知ってるけど、怪我の対処はあまり知らないようでね。
包帯の巻き方を教えてほしいと頼んだら、眉をひそめられたわ。
『そんなの、巻いとけばいいだけだろう』……って……」
「……あぁ……」
その人の考えも、フィーナには理解できた。
保険医も医学に詳しい人も、患者は貴族だ。
貴族籍の人間は怪我などほとんどしないだろう。
貴族にとって医師は、病気を治す者を意味する。
対してフィーナの両親は、体資本の仕事をする庶民が患者となる。
薬屋の患者は病と怪我、半々の割合だった。
両親の手伝いをする中で、フィーナも包帯の巻き方を覚えていった。
たかが包帯。されど包帯。
巻いておけばいいのは確かだが。
(体動かす作業が少ない人は、それでもいいだろうけど――)
そう思って、ふと違和感を覚えた。
「あれ? 包帯の巻き方、覚えてどうするんですか?」
「もしもの時に対処できるようにしておきたいの」
「怪我すること、ほとんどないのに?」
「も――もしもの時の為によ。
ほ、ほら。
魔法大会のようなことがあるかもしれないじゃない」
「それはないと思いますけど――というか、あった方が問題です」
今回の魔法大会で貴院校運営陣は、生徒の保護者から猛烈な批判を受けた。
爆発の原因は、競技で使用した柔らかいボールが割れた際、生じた小さな火花が、中の可燃性ガスに引火して暴発したものだった。
当日の気温が高く、熱せられた内部のガスが限界まで膨張していたのも原因の一つだった。
幸い、生徒達の怪我は軽傷で済んだ。
起きれなかった生徒も、気を失っただけで、怪我はなかった。
保護者は「来年以降、魔法大会の中止を」と声を上げたが、生徒が自身の親を説得し「十分な安全策を講じる」との約束の元、来年以降も開催が許された。
そうした経緯のある魔法大会で、また我人を出したら目も当てられない。
「で――でも……何があるか、わからないでしょう……?」
フィーナに論破され、カトリーナはおどおどした口調になる。
カトリーナを見かねたテレジアが、ため息をついて口を開いた。
「カトリーナがお付き合いしている殿方が、騎士の訓練校に通っていてね。
訓練で生傷絶えなくて、包帯巻いてて、ほどけた時、結べてあげれなくてショック受けてるのよ。
彼の為に覚えたいのよ、この子は。
不純な動機でごめんなさいね」
「テレジア……!」
カトリーナは顔を真っ赤にして、わたわたと意味もなく両手を振っている。
恥ずかしさをごまかそうとしているようだ。
「そうなんですか」
「……呆れた?」
「いえ、そちらの方が納得できます」
答えるフィーナに、理解を得られたカトリーナは安堵しつつ、恥ずかしさで両手で顔を覆っていた。
カトリーナの本当の理由には納得できたものの、それでも「?」が拭えない。
「集活にする必要、あります?」




