9.期末試験 4
採点は試験日翌日から教師が手分けして行う。
採点終了後、クレアのクラスの解答用紙のダミー二部を見比べて――手が加えられている状況を確認した。魔力で手を加えた人を追跡できる処置もしていたので、犯人もすぐに判明した。
クレア・キャンベル。
彼女が手を加えていた。
贔屓にしている生徒の点数が加算されるように、冷遇している生徒の点数が低くなるように。
サリアの点数が著しく低くされていたことも判明した。
事が明るみとなると、話は期末試験、中間試験だけで終わらないことも判明した。
聴取を受ける中でクレアは、入学試験にも手を加えたと告げる。
それはサリアの解答に、間違いを増やしたものだった。
クレアの行動は貴院校及び、貴院校を統括する部署に衝撃を与えた。
まさかそのようなことをする教師がいるなど――。
そうした思いと、今後の対策を求められた。
今回、クレア・キャンベルの生徒の採点は、校長が保管していた生徒当人のもので行われた。
――クレア・キャンベルには内密で。
試験結果は生徒に公表する前に教師陣に明かされる。
結果が発表されたのを見て、クレアが「ありえない」と騒ぎだした。
採点は手心を加えないよう、ランダムに他のクラス分があてがわれる。
クレアが自分のクラス生徒の結果を知っているわけがないのに「おかしい」と騒ぐ。
「なぜ」と問いだされて、クレアは戸惑いつつ「日ごろの小テストでの点数と異なる」と告げる。
それに関してダードリアは口を開いた。
「代行で受け持った時の私の評価から鑑みれば妥当ですが」
「い――一週間で、何がわかるのですか」
「わかりますよ。戸惑ってばかりの入学当初ではないのです。
一週間あれば、十分、生徒に関して把握できます。
――様々な面に心を配って、注視していれば。ですが」
ダードリアは教師として評価が高い。
彼女にそう言われては、クレアとしては反論しても、自分の能力が低いと露呈しかねない。
口ごもるクレアに、ダードリアは網を狭める。
「なぜ、この点数がありえないと思えるのです?」
「――そ……それは……」
「これは参考ですが」
言って、ダードリアは代行した時の小テストの結果をクレアに見せた。
「代行期間中に、授業で教えたことを翌日小テストしたものです。
あなたの評価、中間試験の結果より、今回の期末試験の結果と似通っているのですが……なぜでしょうね?」
「あ……」
言葉に詰まったクレアだったが「け――けど!」と悪あがきを続ける。
「サリア・スチュードの、この点数はおかしいでしょう!
こんな点数になるわけが――」
「『わかりにくいように教えていたのだから、高得点が取れるわけがない』
――と?」
「え――」
ダードリアに、思っていたことを言いあてられ、クレアは体を強張らせた。
青ざめるクレアに、ダードリアはにっこりと感情なく微笑んだ。
「代行の際、これまでの成績と異なり、小テストの結果が著しくよかったので、サリアに話を聞きました。
『授業がわかりやすかったので、点数もよかったのだろう』――と、言っていました。
では、クレア、あなたの授業はどうなのか?
訊ねると、サリアは答えに窮していましたが、正直な感想を求めると、話してくれました。
教師を入れ替える理由に、教師の指導力を確認する部分もあると告げると理解してくれました。自分だけでなく、他の生徒の為に話してくれました。
サリアは、あなたの授業はわかりにくいので、自分なりの学び方に変えたそうです。
教師の指導に頼らず、自分で教科書を読み込んで、わからないところがあれば、寮の同室者、学年首席のフィーナ・エルドから学んでいる――。……と。
『以前はわからないところをクレア先生に聞いていましたが、授業をきちんと聞いていないのが悪
い。とはねつけられたので、今は同室者に頼っています』
そう言っていました。
――正直、教えを請う生徒を拒否する行動自体、教師としてありえないと怒りを覚えます。
クレア。
あなたが行った小テストの結果が悪かろうと、サリアはサリアなりに努力していたのです。
その結果が、今回の期末試験の結果です。
どこにおかしな点がありますか?」
 




