6.期末試験 1
中間試験の結果は、カイルへの忖度なく公表された。
カイルには事前に相談して了承を得ている。
フィーナは「公表分は忖度しようよー」と嫌がっていたが、カイルが「時と場合で使い分けるのが面倒」と、入学試験結果の経験を踏まえての言葉に、フィーナも渋々従った。
カイルの本心なのは確かだ。成績へのこだわりがなくなっていた。
フィーナには敵わない。
そう思いつつ、いつかは彼女を超えたい――せめて同等でありたいと思うようになっていた。
中間試験結果が発表された際、周囲はカイルを気遣った。
特に国王である父と、第三王妃の母がカイルが落ち込んでいるのではと心配していたが、当の本人はケロリとしている。
「そのような結果なのですから、仕方ないでしょう」
加えてこう告げる。
「目標がある分、私は恵まれています。優秀な者から様々なことを学べているので」
その言葉を、両親は強がりだと思っていた。
国王であるカイルの父が、それが本心だと知ったのは、偶然耳にした状況からだった。
カイルが、王城内で大臣補佐級の役人と話していた時のことだった。
互いに顔は見知っているが、親しくはないのだろう。
そう思える者が、カイルと学生生活の話をしている。
「殿下も大変でしょう。
市井出身者の――どうとも知れない者と机を並べられて、結果も及ばない状態で――」
カイルを気遣う言葉の裏に、カイルをせせら笑う意図が覗いている。
国王は怒りを覚えた。
カイルは王子だ。
継承権順位が第三位であろうと、一介の役人に軽んじられるいわれはない。
苦言を呈そうと足を踏み出そうとしたが――カイルが口を開いたので、足を止めた。
「そうなんだ。大変だ。わかってくれるか」
「え――ええ……。私の時も、クラスは違えど、市井出身者はいましたので……」
「そうなのか。ではぜひとも教授願いたい。
考えなしの行動をするなと幾度となく忠告しているのだが効果がない。
どうすれば大人しくしてくれる?
『ちょっと試してみたかった』と、魔法の授業で燃焼で数メートルの火柱を出して周囲を混乱させ。
兄上の伴魂が迷った時も、自分で保護して伴魂に懐かれてしまう――。
魔法は「変わったことがしたいのなら、事前に相談するように」と言っていたし、市井出身だからか、動物を恐れないとは言え、自分で保護するのではなく、まずは周囲に助けを求めろと言ったのだがな。
都度注意しているが……効果がないのだ」
話を聞いた役人は、引きつった笑みを浮かべた。
「ご……御冗談を……」
「冗談? 冗談を相談してどうする?」
「そ――そのような……私のような下々の者に、殿下が御相談など……」
「貴院校時の話を聞いているだけだ。
国の根幹にかかわる話でもない。
先達者の意見を参考にしたいだけだ。
過去の経験を聞いているだけだが?」
「そ――そのような学生が、いるのですか」
「言っただろう。中間試験の首席者だ」
「わ――私が貴院校生の時には、そのような生徒はおりませんでしたので――」
「そうか。では貴殿の価値観では現状を諮られぬのだな」
「――はい?」
「『市井出身者に成績が及ばぬ王子』。
事実そうだが、先に行った状況を看破出来ぬ輩が吠えたところで、自身の無能を棚に上げて非難していると、周囲につまびらかにしているだけだ。
――自分の低能を吹聴していると、いつ気付くだろうな?」
カイルは終始、淡々とした口調で話していた。
カイルと話しているうちに、相手方の役人は次第に顔色が悪くなって、最後には逃げるようにその場から離れる。
状況を影から見ていた国王は、カイルの対応に、思わず吹き出してしまった。
見事な対応だった。
同時に――なんと胸のすく思いとなったことか。
「父上?」
吹き出した声に気付いたカイルが、父である国王を見つけて側に歩み寄る。
「このような所でどうしたのですか」
「通りかかっただけだ」
言いながら、自分を見上げるカイルの頭を撫でた。
ルディもオリビアもカイルも。
子は等しく愛おしい。
「話は聞こえていた。見事な切り返しだな」
話を聞かれていたことに、カイルは目を見張って――気まずそうに視線を落とした。
「――申し訳ございません。至らぬ成績となってしまい――」
首位でなかった件を、王族として国王に詫びる。
次席でも誇らしい成績であるはずだが――王子と言う立場が、手放しで喜べない状況としている。
期末試験です。
先に更新した分が少なかったので、本日二度目の更新となります。
 




