1.文化祭後の顛末
◇◇ ◇◇
「ひゃっほ~~っい! 元気にしとったか!?」
文化祭を終えた二月後。
ノックもなく激しく扉を開き、フィーナとサリアの寮室へ入ってきたのは。
ラナの後見人である赤毛短髪の女性、ローラ・バーンスタインだった。
「え……っと……ローラ様? どして?」
なぜ寮にいるのかと、フィーナとサリアは目を丸くする。
今日は休日で、フィーナとサリアは期末試験に向けた追い込み勉強をしていた。
――フィーナの為というより、サリアの為に。
貴院生なら時間も惜しんで勉学に励む、ピリピリと緊張感が高い時期に、なぜローラが来たのかと不思議がる。
事前にアポイントもなかった。
フィーナもサリアも外出している可能性もあったというのに。
「ロ――ローラ様!」
ローラの後ろでは、ラナは焦っている。
ラナはローラの行動を止めようと試みるもできなくて、あたふたしていた。
「ダメです! お二人とも大事な時期なので邪魔しては!」
「そんなん、うちもわかっとるって。
フィーナとサリア。時間とらせんから、ちっと協力してくれへんか。
礼はちゃ~んと弾むさかい」
「ローラ様! だからダメですって! お二人は関係ないんですから!」
「関係ないからいいんや。
関係者がしゃしゃりでたら、余計ないちゃもん、つけられかねんからな」
「でも――!
――っ! そう! サリアは関係者です!
クラスが一緒だから!」
「――え?」
ローラとラナのやり取りをあっけにとられて見ていたサリアも、急に出された自分の名前に戸惑いを隠せない。
ラナの言葉にローラは「ふむ?」と首を傾げてサリアに訊ねた。
「あんさん、ラナが理不尽な要求に困ってんの、知っとったか?」
「――何かあったの?」
サリアはローラに答えず、ラナに訊ねた。
その様子を見たローラは「ほれ見たことか!」と、パチン!と指を鳴らし嬉々とした表情を浮かべる。
「サリアも事情知らんのやし、部外者やな!
な!? 人助け思うて、ちょっと一緒に居てくれへんか!?」
「ローラ様! 本当に――もう、やめてください!
お二人にご迷惑かけたくないんです!」
その後もしばらく、二人の押し問答は続いていた。
――フィーナとサリア、二人の寮室の前で。
他の寮生が「何事?」と自室から顔を覗かせて様子を伺い始めたのにフィーナもサリアも気付いて「話は中で――声を落として」と、一時避難として、ローラとラナを部屋へ招き入れたのだった。
とりあえず、フィーナとサリアは二人から話を聞くことにした。
ラナは渋々だった。ローラは嬉々としている。
ローラが言うには、これから一緒に話を聞いてくれればいいと言う。
証人になってほしい。――と。
ラナの様子から「事情は聞かないでおこう」と思ったフィーナとサリアだったが、ラナを説得して事情を聞きだした。
同じクラスの「いじわる三人組」の件だった。
文化祭で三人から受けた注文を、ラナはローラに発注した。しかしローラが三人の注文を拒否したのだ。
ローラが拒否したのを、三人は「ラナのせい」「ラナが発注していない」「ラナがあらぬことを吹き込んで、受けてくれなくした」と吹聴して、嫌がらせをしているのだという。
「ラナ……。何かあったら相談してと言ったでしょ?」
三人はラナを快く思っていない。
ラナ本人でなく「市井出身者と同じクラス」が許せないらしい。
ラナがいなくなれば。そう思って嫌がらせをする。
クラスはよほどのことがない限り、三年間、メンバーは変わることなく、持ちあがりとなる。これから先も同じクラスだというのが嫌らしい。
「だ――大丈夫。悪口を言わるだけだから。気にしなければいいだけのことだから」
それもサリアが居ない時を狙ってのことだった。
ローラは独自の情報網から、ラナの状況を知っていた。
以前、ラナの伴魂が怪我をして、一度はラナが「セクルトをやめよう」と考えた件を踏まえて、それとなく見張りをつけていたのだ。
「大丈夫やない。だいたい、自分がいちゃもんつける相手が作ったもん、欲しがるっちゅーのが意味わからんし。
嫌いな相手が作ったもん、嫌なだけやろ?」
「あ――それは……」
サリアは心当たりを話した。
サリアとラナのクラスの出しものとした普段着のデザインは評判となり、そこかしこで「早く着てみたい」と話題になっている。
自分たちも流行に乗りたいのだろう。
「持っていないと思われるのが嫌なのよ」
「なんや。見栄の為やん。そんなんに、丹精込めて作ったもの、着て欲しないわ」
新章開始です。
久しぶりのローラとラナ。
ローラの口調へのツッコミにはご勘弁願います……。(苦笑)




