44.魔法の作用 32
サリアの担任は、事前の周知はなかった。
それは「本来の姿を見るため」ではなく「自分のいいように配点する為」に思えてならなかった。
ダードリアの話を聞いて、フィーナはすぐサリアに自分のクラスの状況を伝えた。
サリアは驚いたものの、動じる様子もなく「大丈夫よ」と微笑んだ。
「先生に手心加えられても関係ないから」
不敵に微笑むサリアは、自分の成績への自信にあふれていた。
「大丈夫なのか?」
フィーナの話を聞いて、カイルはサリアを心配した。
フィーナは、にっと微笑んだ。
「マサトのしごきに耐えられてるもの」
魔法の鍛練で経験しているカイルは、その一言で理解した。
「なら、大丈夫だな」
「そうそう。大丈夫大丈夫♪」
明るい口調でフィーナが告げた時、わっと校庭から歓声があがった。
木枠の中で燃えていた炎が一段と高くなり、周囲を照らす光が増したのだ。
側にいる人の表情が炎の揺らぎで分かりにくかった生徒たちも、昼の明るさと同等になった状況を歓迎した。
元々、木枠内の薪に仕組まれていたものだという。
仕組みの発動は、同時に別の意味もあった。
「ダンスタイム――」
知っているカイルがつぶやく。
「ダンス、タイム?」
首を傾げるフィーナにカイルが説明した。
いつの頃からか生徒の間で、恋人関係の者同士、もしくは恋人未満の者同士が、貴院校卒業後、いずれくる社交界デビューに向けて「ダンスの練習」と称して火を囲って踊るようになったという。
相手がいない者は、後方に下がっていた。
後方に下がった者同士の中でも「この機会に」と意中の生徒に声をかけて、了承を得られれば前方でダンスをする――。
生徒の中で隠れた告白イベントとなっていた。教師陣も黙認している。
「へー。そういうのあるんだー」
踊る生徒達をフィーナは眺めている。
「……いいのか?」
「なにが?」
「ここに居て――火の側で、誘いを待たなくて」
目を瞬かせたフィーナだったが、カイルの意図を察して否定する。
「だ、だから――そんな人、居ないから」
「そういえば、ダンスの練習は大丈夫か?」
カイルが訊いたのは、スーリング祭を見越してのことだった。
学年の首席と次席が参加するお披露目の場に、来年もフィーナが参加するだろうとカイルは考えていた。
フィーナはダンスに苦戦していた。
「大丈夫。練習しているから」
「……本当か?」
「試してみる?」
フィーナの言葉を受けて、カイルはフィーナに手を差し伸べた。
ダンスを誘う仕草だ。
挑発的な笑みを向けるカイルに、フィーナも不敵な笑みを浮かべて、その手をとったのだった。
教室の空いている場所でダンスを始める。
「大丈夫」と告げたフィーナは、言葉通り、苦になくステップを踏めている。
想像以上の上達に、カイルが驚いたほどだ。
スーリング祭のたどたどしさが嘘のようである。
「ザイルと練習してたから」
フィーナは「必要最低限できればいいんじゃない?」と思っているのだが、ザイルに言葉巧みに促されて練習していた。
セクルトに入る前は身長差でザイルが練習相手では難しかったが、今ではどうにか踊れる身長差にまでなっていた。
カイルはザイルの名を聞いて、一瞬顔をしかめたものの、フィーナが気付かないうちに表情を元に戻した。
「ザイルとは仲がいいんだな」
「昔から知ってるからね~」
「……もしもの時は、ザイルとの婚姻、考えているのか?」
「……え?」
驚いてカイルを見ると、カイルは静かにフィーナを見ている。
訊かれた内容と、カイルの眼差しにドギマギしながら否定した。
「ないない。
ザイルって第二のおじさんって感じだし」
「……そこは「兄」だろ。年齢的に考えても。
ザイルが拗ねるぞ」
「年齢とかじゃなくて。かまい方がお父さんの弟の、カシュートおじさんに似てるの」
「叔父がいるのか」
「おじいちゃんの諸国散策に、無理矢理同行させられてるから、しばらく会ってないけどね。
私もセクルト卒業したら、やりたいことあるし」




