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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第七章 伴魂とこの世の理
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42.魔法の作用 30


 敬愛するオリビアの弟だと知って、姉、アルフィードに思いを寄せていると知って。


 姉を好きなフィーナには「見る目がある」とカイルを認識して――少しずつ、時間と共に関係が変わっていった。


 彼の思慮に救われる場面も多々あった。


 ……いつしか心を許し、頼りにしていた。


 そうしながら、一番大事な認識を、取りこぼしていた。



    カイルは、王族。


    この国の、第二王子。



 彼にふさわしいのは、他国の王女、もしくは身分の高い令嬢だ。


 気付いて、きつく目を閉じて、思い出す言葉がある。


 カジカルの件でドルジェに戻った時。


 マーサが話していた。


「ジークが他の子と仲良くしている所を見た時――ショックだったの。

 それからジークを意識するようになって――自分の気持ちに気付いたの」


 ……と。


 フィーナがユーファとカイルが気になるのは。


 胸がざわついて平静でいられないのは――。


 セクルトに来なければ……カイルと会わなければ……彼と過ごした時間がなければ。


 こんな気持ち、知らずにすんだのに。


「――フィーナ?」


 不意に聞こえた声に驚いた。


 びくりと身震いして振り返ると、カイルが教室の出入口に立っていた。


 ――どうして……。


 カイルは窓越しに並ぶフィーナの隣の椅子に座った。


 カイルの肩には伴魂が乗っている。


 伴魂はカイルが椅子に座ると、机に降りて、マサトの側にとてとてと歩いた。


 伴魂同士のやりとりで、カイルはフィーナがここに居ると知ったようだ。


 校庭の炎が揺れて、フィーナとカイルの姿を、朱の光と影で写しだす。


 フィーナの隣に座ったカイルは、校庭を見下ろした後、つとフィーナに顔を向けた。


 揺れる炎の明かりで、カイルの顔もいつもと違って見える。


 どきりと、フィーナの鼓動が跳ねた。


「ユ――ユーファ様は? お相手、しなくていいの?」


「王女の申し出で、姉上がお相手している。

 姉上は嫌がっていたがな」


「――そう、なんだ……」


 フィーナは、カイルではなかった状況にほっとした。


 カイルはしばらくフィーナを眺めた後、静かな声音で口を開いた。


「――すまない」


「――カイル?」


「勝手に関係を偽って……。

 ここに一人でいるのも、人目を避けてのことだろう?」


 調査団対策に取られたフィーナとカイルの恋仲は、要所要所には知られていた。


 含んだ物言い、態度から、フィーナとカイルを気遣う様子が見えていた。


 否定もできず、二人は互いに気まずい思いをしていた。


 フィーナが空き教室の暗がりに一人でいるのを、カイルはそれが理由だと思ったようだ。


「違うよ。

 最近忙しかったから――一人でぼんやりしたかっただけ」


 告げて、校庭へ目を向ける。


 それも理由の一つだから、嘘ではない。


 しばらく続いた沈黙の後、カイルがぽつりと切り出した。


「セクルトに来たこと――後悔しているのか?」


「――え?」


 声に――言葉につられてカイルを見ると、フィーナの様子を伺っている。


 なぜそんなことを聞くのか不思議に思って――さっき呟いた言葉を聞かれたのだと察した。


「俺は――セクルトに来て、フィーナと……共に学べて、よかったと思っている。

 フィーナがいたから、学べることも多かった」


「そ――そうだね。

 マサトの指導に耐えて、魔法もすごく上達したもんね」


「人として、学ぶことが多かったんだ」


 告げるカイルは、真っすぐにフィーナを見ている。


 フィーナはその瞳にとらわれて、目が離せなかった。


「アルフィード様は、伴魂を認めてくれた。

 フィーナは、王子の俺でなく、俺個人を見てくれた。

 セクルトをやめてほしくないが……どうしても耐えられないのなら、伴魂と離れずに退学できるよう、手回しする」


 真っすぐに見つめて告げるカイルの言葉に、フィーナは小さく息を飲んだ。


 見つめるカイルから――目が離せない。


 「セクルトをやめたい」とこぼしていたが、実際「やめてもいい」と許されると戸惑ってしまう。


 「やめられるわけがない」と思っていたから、急に不安になった。


 これまで積み重ねてきたものが無になる感覚と――やり遂げていない、まだ途中だと思えるものへの執着。


 そして――貴院校で出会った人たちと別れる寂しさ。


(サリアとも――カイルとも、もう会えない――?)


 そのことが一番怖かった。


「ご……ごめん。気にしないで。ちょっとしたグチだから」


「本当か? いつになく落ち込んでいたようだったが……」


「目立たないよう、大人しくしてたからそう見えたんじゃない?」


「――気を使わせたからな」


 フィーナはカイルの関係を詮索する輩への対処で、他のクラスや学年の出し物を見て回ることもなく、一人で過ごしていた。そうした状況をカイルも気付いていたのだ。





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