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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第七章 伴魂とこの世の理
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40.魔法の作用 28


 あちらの世界ほど華やかさはないが、好奇心溢れる表情を見せる貴院校生たちは、マサトの世界の学生と重なって見えた。


 二重に見えた視界も、すぐに普段通りに戻る。


 今回、クラスの出し物に、フィーナとカイルはほとんどかかわっていない。


 最初の構想段階で意見を出したくらいで、あとは同じクラスのベルとジェフが取り仕切ってくれた。


 案もベルが提案した。


「わたくし、フィーナの薬茶がいいと思います」


「……え?」


 最初、ベルが提案した時「どこで聞いた?」とフィーナは身構えた。


 親しい人にしか振る舞っていないし「他の人に言わないで。先生に駄目だしされたら困るから」と薬茶を頼まれた人、送った人には頼んでいた。


 カイルを見ると「ちがう」と首を横に振った。


「サリアが飲んでいるのを、少しもらったの」


 フィーナとカイルとのやりとりから察したベルが、先んじて答えを告げる。


「サリアが――?」


「ああ、サリアを責めないでね?

 図書室で飲んでいたものを、私がこっそり飲んだから。

 香りが珍しいんですもの」


 後に知ったが、物静かで大人しいと思っていたベルは、自分が興味持ったものはとことん食らいつく――探求を続ける人柄だった。


 彼女が貴院校新入生、フィーナに次ぐ女学生の次席者だ。


 同じクラスながら、目まぐるしい日々で関わりがなかったが――このような人だったとは。


 ベルはお茶に凝っていて、時折図書室で一緒になるサリアの飲み物が気になっていたらしい。


 こっそり飲んで、知らない味と風味、香りに驚いて、サリアから最近、ようやく聞き出せたのだと言う。


 飲んだ物の再現を試みたが、どうもしっくりこない。


「ちょうどいい機会でしょう?

 フィーナの薬茶を学べて、みんなも飲めて。

 ほ~ら。良い事づくめ♪」


 うふふふふ。ふふふふ♪


 ……と、頬を染めて嬉しげに微笑むベルは……本気だった。


「え……っと……――ベルって、こういう子だったの?」


 冷や汗をかきながら、側にいるカイルに小声で問い掛ける。


 カイルはカイルで、フィーナ同様冷や汗をかきながら、ぶんぶんと首を横に振っていた。


 とりあえず、どこか遠くへ意識を飛ばしているベルを我に返らせて、フィーナはベルの申し出を丁重に断った。


「薬効が低くても、知識のない人に教えることはできないから」


 薬は毒にもなる。毒は薬にもなる。


 人によって体に良い物、悪い物が異なったりもする。


 フィーナが振舞う時は、万人に影響の少ないものを少量ずつ、様子を見ながら、種類や量を調整していた。


 フィーナの話にベルは納得したが「だったら」と別な提案をしてくる。


「副作用の少ないものを教えてもらえないかしら」


「副作用って――その時点でダメでしょ」


 そのような素人考えが恐ろしいのだ。


 二人の話を聞いていたカイルが、フィーナの袖をひいて耳打ちする。


 なぜか顔が青い。


「――薬茶には副作用があるのか?」


「――時と場合、量や人によってはね」


「――なら、母上が作るものもか」


「――ソフィア様のは、薬茶と言うより、お茶に香りと果実の風味をつけてるから――」


 カイルの母、ソフィアが「自称薬茶」に熱中しているのは、この前会った時にわかった。


 ソフィアが言う「薬茶」の元は、国で常用される「翡翠茶」だ。


 原料となる翡翠木の若葉を原料に作られるお茶で、サヴィス王国だけでなく、隣国周辺でも身分を問わず、日常的に飲用されるものだった。


 価格帯はピンからキリまである。


 ソフィアは高級な翡翠茶を自分なりに研究して、フィーナも賛辞を送る風味にしていた。


 高価な翡翠茶は、単独で風味豊かなのだが、その風味を生かしつつ、加えた香り、果実の味わいによって、より豊かなものになっていた。


 翡翠茶も、風邪気味で喉が痛い時にうがいをするといい。――など、民間療法がある。


 広い意味では薬茶の部類になるから「フィーナの薬茶とは根本が違う」と、敢えて言わなかったのだが。


「ーーソフィア様が、どうかしたの?」


「ーーこの前、父上とリリーナ様に振る舞われていたんだ」


「ーーそれは大丈夫。この前と同じものだったら、副作用とか心配しなくていいものだったから」


 フィーナの言葉に、カイルは安堵していた。


 フィーナは、カイルの話からふと、ソフィアの出したお茶を思い出して、閃いた。


「薬茶でないと、駄目なの?」





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