39.魔法の作用 27
「王女様に野蛮なものをお見せするのはいかがなものかと」
告げるオリビア自身は、騎士の衣服に身を纏っている。
柔和な態度を見せつつ、けれど一線を画している――。
――そうだ。これが本来、とられるべき対応なのだ。
オリビアと同じような対応をした騎士団は、他にいくつか存在した。
後で聞き知った情報によると、それらはオリビアと親しい長が統括する団とのことだった。
第一王子ルディ、第一王女オリビア、第二王子カイル。
成り行き上、全ての王子王女と対面できた。
ユーファが認めるのは、第一王女、オリビアだけだ。
ルディもカイルも、危機意識が低いと感じる。
『なんでこんな平和ボケしてる国が、他の国から恐れられてンの?
うちの兵の方がよっぽど強いと思うけど』
「それは――わからないけれど、簡単に考えられないのも事実よ。
言われていたとおり、国民誰もが初歩の魔法は使えるようだから。
いざというときは戦力になると考えると――うちのような、魔法を使えない国民が大多数の国からすれば、脅威に他ならないわ。
それに――この国は、どこもかしこも、魔力や精霊の気配が色濃いのよ。
攻撃を受けた時、どれほどの力で対応してくるのか。
フィーナのような子が、他にいる可能性も否定できないし。
退けるだけでおさまってくれるのか、それとも寝ている子を起こす事態になるのか。
他に攻め入ろうと思っていないのだから、変な刺激を避けようとしているのが、実情でしょうね。
……ただ、他国からどう見られているのか、この国自身きちんと把握していないみたいだけれど」
『だからアブルードも手を出しにくいんだぁ……』
『むー』と考えるリックに、ユーファも「そうね」と同意する。
同意しながら、ユーファは「そう言えば」とつぶやいた。
「どうしても腑に落ちないのだけれど……神聖国と名高い国だから、国王陛下や王族の方々から、その気配を感じると思っていたのだけれど、それほどではないのよね。
庶民というフィーナの方が、眩しいほどだったわ。
それに、この国で伝わる初代国王の話に、おかしなほど精霊や神の話が絡んでいないのよ。
隠されているのではと思えるほどに。
それに……近年、小国が攻め入ったものの、大敗した話を聞いていたのだけれど、誰も知らないのよね……」
考え込むユーファに、考えるのを放棄しているリックが『けどさ』と話題を転じた。
『魔法、教えてもらえてよかったね。フィーナは……メチャクチャなとこあったけど、わかりやすかったし』
「そうね。その点は感謝しないと」
言いながら、ユーファは考える。
「うちに欲しいくらいよ。引きぬけないかしら」
『それは難しいよ。
側にいてくれたら、良い先生になってくれるのは確かかもね。
おっちゃん、教えるのヘタだったもん』
「『おっちゃん』だなんて、言わないで」
ユーファは憤慨する。
「カシュート先生、よ」
実践室でユーファの鍛錬が終わったのを見計らって、フィーナはしこたまカイルに怒られた。
謝るしかないフィーナだったが一応「百回の実演のため、時間短縮のため」と弁明する。
「律義に100回しなくても、ユーファ王女なら複数回こなせば理解してくれたはずだ」
カイルの意見に「そうだったのかな?」と首を傾げたが、今回は自分の否を認めて、フィーナは謝り続けた。
カイルを含む、周囲の人間に何度も言われていた。
「目立つことをするな」
「変わったことをするな」
「事前に相談しろ」
その全てを破っているのだから、怒られるのも当然である。
カイルの苦言を受けて反省していたものの、その時は第二王妃、サラの腕輪が気になって気もそぞろとなっていた。
口数少なく、落ち込んだ(と見えた)姿に、カイルも反省したと判断して、フィーナに念押しをした後、解放した。
フィーナはマサトと寮に戻る道すがら、腕輪の話をした。
その翌日。
文化祭が二日間開催され、各クラスが独自に研究したもの、作った物を発表する場となった。
『文化祭まんまだな』
情景を見たマサトが、そうつぶやく。
『飲食物は限られて、見世物はないが、各クラスの担当を当番制にして、当番でない者は他のクラスを見学に行けるところは同じだ』
――と。
マサトのいう「文化祭」が以前の世界のことだと、フィーナにもわかった。
ふっと脳裏をよぎる景色が、今、目にする情景と重なる。
制服姿の生徒と思しき男女が、楽しげに騒いでいる。
ユーファが口にした名前。
過去に出ています。




