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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第二章 セクルト貴院校
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9.フィーナと伴魂の口げんか


『お前、バカだろ』


 ベッドの上に座る白い伴魂は、ため息交じりに告げた。


 夜。


 就寝時刻を迎えて、様子を見に来た伴魂を寮の寝室に迎え入れて、状況を説明して言われたのが、冒頭のセリフである。


 フィーナは両手で顔を覆って、上方を仰いでいる。


 ――言われればその通りだ。


 何も言えないフィーナをしばらく見ていたネコは、再度、大きなため息をついた。


『もう一度言うけど、ホンットに、お前、バカだろ』


「ううう、うるさいっ!」


 隣にあった枕を、反対隣に居たネコに投げつける。


 ネコは簡単に避けていた。


 フィーナとしても当たるとは思っていなかった。子供の癇癪のようなものだ。


『個室だったら周囲に気を使わず、これまでとほとんど変わりないと思ってたんだが』


 ネコはザイルからの情報で


「主席合格だったので寮は個室でしょう」


 と聞いていた。


 そうしてセクルトに入って二日目。


 ある程度、落ち着いただろうとフィーナの気配をたどって女子寮にたどり着き、寝室へ招きいれられたのだが。


 同室者がいる話を聞いて、ネコは目を丸くする。


『主席合格じゃなかったのか』


「そうだったみたい」


『なのに何で個室じゃない?』


「変わったから」


 そこでフィーナは、食堂での出来事をネコに話した。同室者を得られて喜ぶフィーナに、ネコは深いため息をついた。


『あのな。同室者がいるってことは、俺のこと、ばれる可能性が高いってことだろ。

 ――ザイルから個室だろうって聞いて、その点は安心してたんだがな。

 それにしても、どうして相談なく勝手なことしてんだよ』


「で、でもっ! 個室だと他の人と話せる機会少なくて、いろいろ教えてもらえないと思ったから!」


『日常の小さな事に関しては、その気持ちもわかるよ。だが間違ったら、次間違えなければいいだけだろ。始めの失敗連続は許してくれるだろ。知らないって、向こうもわかってんだし』


「そ、そうだろうけど――」


『一番困るのは、俺とこうして人の言葉で話してるのを知られてしまうってことだろ? 優先順位、間違ってないか?』


 ネコの言うことに間違いはない。


 実際、そうなのだが……素直に「はい」と受け入れる事がフィーナにはできなかった。


 貴族の子女ばかりという空間で、礼儀作法の指導や、ザイルやアルフィードから前知識は受けているが、知識で知っているのと実際体験するのではやはり違っている。


 フィーナも不安はあるのだ。


 自分なりにその不安を払拭できたと思っていたのだが。


 フィーナはキッとネコを睨んだ。


 ネコが反応するより前に、頬を両手で包むと、うにー、と横に伸ばした。


『いひゃ、いひゃいっ!』


「うるさいうるさいうるさいっ!!」


 癇癪を起こして、ネコの頬をつねるフィーナは、ひとしきりその行為を続けた後、不貞寝してしまった。


 自身の伴魂が呼びかけても、何の反応もない。


 それから。


 フィーナと伴魂の。


 冷戦が始まったのだった。



       ◇◇          ◇◇



「一体、何があったのですか」


 当惑するザイルに、ネコは背を向けて無言を通していた。


 ザイルとネコは、有事の時の為に、独自に連絡をとれる方法がある。


 それによって、ザイルがネコを呼び出して、現況把握をしようとしていた。


 場所はオリビアの騎士団が所有している来客室である。


 オリビアを含む騎士団の面々は、訓練場で鍛練を積んでいるので、空室となっているのをザイルが借りていた。


 ザイルの他に人がいないのを確認して、ネコは来客室に赴いたのだが……入室当初から機嫌が悪く、ザイルに背を向けて丸くなって寝てしまっていた。


 ネコの不機嫌さに、ザイルは戸惑っていた。


 ザイルがネコを呼んだのは、フィーナの成績に関してである。


 ザイルはフィーナの担任、ダードリアから相談を受けていた。


 ここ数日、授業ごとに行っている小テストの成績がおかしいとのことだった。


 点数は合格ぎりぎりなのだが、以前正解しているものを間違っている。


 早く解き終わっているのに、間違いの多さが気になると言っていた。


『単なるポカミスじゃねーの? あいつ、のほほんとしてっから』


「けっ」と、白い伴魂は背を向けたまま、やさぐれた黒さを覗かせる。


「『ポカミス』?」


『わかってるけど、勘違いとかで間違ってしまうってこと』


「ありえなくはないですが……私も違和感があるのですよ。

 いつものフィーナでしたら、間違えたら驚いて慌てるのですが、間違いを指摘されても慌てず、どこがどう間違えたのか、確認もしない。

 ……始めから間違っているのをわかっているようでした。

 ダードリアの話では、初日の女子寮の件があるので、敢えて間違うことはしないはずだろう。とのことでしたが――もし、敢えて間違う手段を講じているとしたら、それなりの理由があるのでは。

 ……と」


 ザイルの話を聞いたネコは、肩から先を起こして顔だけ振り向いて、じっとりとした視線を向けた。


『……お前のせいだろ?』


「やはり――そうでしょうか」


 ザイルも心当たりがあったのだろう。ネコの言葉に確信を深くしてため息をついた。


『前からフィーナ「目立ちたくない」って言ってたのに、目立つお前を実家が雇ってるとか、姉ちゃんのこととか。

 話す必要のない事しゃべりまくりだもんな。

 話題自体、注目を浴びることばっかだし。

 成績も良すぎないことで、これ以上注目を浴びないようにしようとしてるんじゃねーの?

 別にいいんじゃね? 少しくらい成績悪くなったって』


「困る者がいるのですよ」


『誰?』


「一人は担任であるダードリアです。

 入学直後に著しく成績が下がっては、本人の能力だけでなく、担任の指導にケチがつきます。

 次にカイル殿下です」


『担任が評価されるので困るのはわかるけど、何で殿下が困る?』


「次席のカイル殿下に遠慮して手を抜いていると見られかねず。

 手を抜かれた殿下の評判も悪くなりますし「脅して敢えて間違えさせたのでは」との勘ぐりもあり得ます。

 フィーナ独断でわざと間違えたと判断された場合、極端な場合、不敬罪もあり得ます。

 罪自体は軽いでしょうが、セクルト貴院校を退学させられないかと」


『別に退学になってもいいんじゃねーの?』


「前も言いましたが、落第、退学となったら伴魂取り上げもあり得ますよ。

 そうした面を考えると、フィーナ自身も困る結果となるのです」


『うっわ、めんどくせー! 王族も貴族も!』


「それでフィーナに真相の探りを入れてもらい、説得をお願いしたかったのですが……」


 言いつつ、ザイルは、それが難しいだろうとも思っていた。


 今日の様子を見ていると、フィーナとネコ、側に居ても、互いが互いの存在がないような振る舞いをしている。


 ケンカをしているのだろうと思えた。


 予想は当たっていたらしく


『頼みたきゃ、自分で頼めば?』


 と、そっぽ向いてしまう。


「仕方ありませんね」


 ザイルはため息をついた。


「最後の手段としてとっておきたかったのですが……」


 含んだ物言いに、ネコも気になって『何たくらんでる?』と聞いてみた。


 ザイルは笑顔でこう告げた。


「餌をたらします」




閑話的内容です。

やっとネコが長く話せる状況が書けました。

ホントはもっと早く、たくさん話せる状況を書きたかったんですが。

次回、来訪者と、ザイルが言う「餌」が、フィーナに吊るされます。(苦笑)

御褒美、的なものです。

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