38.魔法の作用 26
『フィーナもそういうの、繰り返してきたんだ。
今も時々は前詞唱えて、魔力の流れを確認してるから』
ユーファは「劣っている」と言われているようで釈然としなかったが――今は教えを請うている立場なので、渋々試してみることにした。
意識を集中させていたが――胸の奥がもやもやする。
『ユーファ~。雑念多いよ~。今はこの子とアイツの言うこと、試してみようよ~』
伴魂のリックが、肩からつかまり立ちして、ユーファの頭にぺったりと頭を乗せて、助言する。
言われてユーファもハッとした。
ふるふると頭を振ると、意識を切り替えることに集中した。
余計なことは考えず、魔法に集中する。
――久しぶりに前詞を唱えた。
唱えながら、一つ一つの言葉に注意して――魔力の流れも意識した。
「――弾飛」
呪文を唱えた時。
自分でも驚くほど、するりと事象が発生した。
肩すかしを受けた心地を感じるほどに。
驚いて、自分の手を見てしまう。
「すごいです。すごく綺麗でした」
喜んでぱちぱちと手を叩くフィーナを、ユーファは疲弊が色濃く残る意識で、ぼんやりと眺めた。
――敵わない。
そう、思ってしまった。
ユーファの疲弊が大きくなったので、鍛練はそこで終了となった。
呪文だけで唱えるようになるタイミングをユーファが訊ねると、フィーナは困った顔をしてマサトに助言を請う。
マサトは『俺にもわからん』と首をすくめた。
「実演を見れるのなら、助言できるのですが……」
フィーナも明らかな概念はない。
「何となく」でこれまでも来ていた。
「私が呪文だけでするようになったのは、前詞を唱えるのが面倒だったからなんですよね……」
前詞を唱えずとも、魔力の流れは体に染み付くほど理解しているのだから、省略しても構わないのでは。
そう思って省略を始めたのだ。
「呪文だけを唱えた時、前詞を唱えた時と同じ感じだったら、大丈夫ではないでしょうか」
それ以上は、私にもよくわかりません。
そう、フィーナは告げた。
「あれほどの実力を持つ者が、学生だなんて……」
重い体に鞭打って歩きつつ、ユーファはこぼす。
『あれは……あのねーちゃんが特別すぎだと思うけど』
「特別……そうね。
伴魂もそうだけれど、あの子自身が普通ではないわ。
本当に、この国の誰も気付いてないのかしら。
あれほど強く精霊の気配を纏って――加護を受けているというのに。
あの子に比べたら――」
『ねぇねぇ。本当にこの国、そんな強い国なの?
み~んな、やわやわな気配なんだけど。
騎士団くらいじゃない?
戦力ありそうなの』
「騎士団……そうね……」
リックの言葉に同調しながら、ユーファは眉をひそめていた。
騎士団を見学したいと駄目もとで申し出たが、すんなりと許可が出た。
貴院校見学の許可が降りた時も正直驚いたが、騎士団見学許可は驚きどころではない。
この国の危機管理意識を心配してしまった。
守りの要を、他国に簡単に見せていいのか。――と。
そうした中、見学した騎士団は、統括する長によって、対応がまちまちだった。
実力を鼓舞して来る団、明らかに実力に見合わない力を天狗となっている団。
日々鍛練をしているので、庶民より武力があるようだが――。
そんな中、第一王女、オリビアが騎士団を統括していると知って驚いた。
驚きながらもユーファは自分の考えに近いのではと思えて、親しみを感じていた。
オリビアは王族らしいもてなしで、ユーファを迎えた。
――王族らしく、自身が持つ騎士団には触れぬように。
オリビアの側には、若草色の髪の青年と、艶やかな深い蒼の髪の、オリビアと同じ年頃の女性が控えている。
二人は終始、オリビアの側に付き従い、ユーファ達を警戒していた。
オリビアは王女らしく、優雅な物腰、所作でユーファを歓迎した。
――歓迎が表面上であることは、ユーファも次第に感じ取っていた。
騎士団を見てみたい、鍛練の様子を見せてほしいと告げても、オリビアは丁重に断った。
久々。
回想場面ですが、オリビアとアルフィード登場です。
閑話休題。
マサトとリックだったら。
ペットとしてはリックが側に居てほしいです。
マサトはうるさそうなので……。
(唐突に思ってしまった戯言です)
分別のあるいたずら小僧は好きなのです~。(前も言った)




