33.魔法の作用 21
ユーファは素直な賛辞をカイルに送り、カイルも初めて人前で披露した、燃焼の強力版がうまくできて、どこか誇らしげだ。
カイルの努力を知っているから、フィーナも素直な賛辞を贈りたい。
……けれど。
ユーファに先を越されて……何となく、胸の奥がもやもやした。
結局、カイルに何も言えないまま、続けて告げるユーファの言葉に意識が持って行かれた。
ユーファはカイルへの賛辞を送った後、ちらりとフィーナに物言いたげな目線を送る。
その視線に気付いたフィーナが「ん?」と首を傾げる。
そのフィーナを見て、ユーファは再度、カイルへ目を向け、言いにくそうに口を開いた。
「前から気になっていたのですが……この方は……フィーナ・エルドは……本当に市井出身者なのですか?
本当は王族縁、違ったとしても、何かしらの貴族籍縁の者ではないのですか?」
フィーナはユーファの言葉に目を点にしたものの「違いますよ」と否定する。
「セクルトに在籍して伴魂が珍しいので勘違いされる方もいらっしゃいますが。
市井の者です」
「その……エルドから精霊の……神聖な気配を感じるので……」
ユーファの国では、魔術を使う者は、精霊の加護が常人より強いのだと言う。
クレンドーム王国では、魔術を使う者は互いにその気配を感じあえる。
ユーファも伴魂による魔法ながらも国で認められているのは、魔術士達がそうした気配を感じたからだ。
ユーファも同様に、魔術が使える者を感じ取れるようになっていた。
そのユーファには、フィーナの気配は人一倍強く――清廉とした……神々しさを感じると言う。
(――「魔力が強いってことかな?」)
(――『だろうな』)
意識下の会話で、フィーナとマサトはユーファが告げる内容をそう結論付ける。
幼いころから鍛練を続けて高まった魔力を、そのように感じているのだろうと。
「事情があって、幼いころから魔法の訓練続けてたからだと思いますよ」
「あははは」と笑って告げ、フィーナは話を終えようとした。
(精霊……ねぇ……)
否定しながらも、フィーナは頭の片隅で思い出したことがあった。
魔法を使う時、稀に感じた――人の姿ながら人でない――実体のない存在を。
物語で語り聞く精霊の類だろうと思っていたが……深く考えてはいなかった。
感じる時は唐突で、霞のように捕えところのない、不確かな存在だった。
気のせいだろうと、思っていたのだ。
ユーファの話しは気になったが、今は時と場合が悪すぎる。
カイルが側にいるというのに「貴族籍に縁があるのでは」ならまだしも「王族に縁があるのでは」など、聞くべきではないとわからないのか。
しかしユーファも引かなかった。
「サヴィス王国の初代国王は、神か――精霊か。そうした存在と人の親を持つ方だったのでしょう?
サヴィス王国の王族は、神聖で、精霊の加護を受けていると聞いています。
カイル殿下やルディ殿下、王族縁の方からはそうした気配を感じます。
エルドからも、そうした気配を感じるのです」
だからフィーナは王族なり、王族に近い貴族籍の縁があるのではないかと、ユーファは続ける。
熱弁するユーファと違い、フィーナは彼女に押されて、逆に苦笑いを浮かべるだけだった。
ユーファが語るサヴィス王国の成りたちは、フィーナだけでなくカイルも聞いたことがないものだった。
フィーナが思うに、国民誰もが伴魂を取得し、簡単な魔法なら誰でも使える国を、他国が、サヴィス王国の成り立ちに神か精霊が関わっているから、魔法を使えるとしたのではないかと作り上げたのでは。
その思いから、ユーファの話を聞き流していた。
マサトも、その事に関して特に何も言わなかった。
話を切り上げるように「次はユーファの鍛練」と、魔法の指導に話をもっていく。
フィーナとカイル、共に経験した指導を受けたユーファは、帰るころには歩くのもおぼつかないほど疲労していた。
歩ける余力は残していた。
国に帰ってからも、一人で続けられるよう要点は伝えていた。
マサトが気にしていたユーファとリックの魔力バランスも心配なかったようだ。
魔法の鍛練は、主である人が疲弊する。
伴魂のリックは、疲れていない。
 




