27.魔法の作用 15
『こいつ、アブルードではすごかったんだ!
意地悪なヤツに戦績取られたのもあったけど、それ含めたら、五本の指に入るくらいの凄腕――。
――っ、いたっ!』
ビシリ。
――と。
マサトは尻尾を横薙いで、リックの額を叩く。
まともに食らったリックは『い~~~~~っ!』と顔を抑えて悶えていた。
『な――なにすんだよ!』
『うるせー。
――アブルードの話はしたくないんだ。
今は仕方なくイヤイヤ話してんだから、余計な話はすんな。イライラする。
――苛立ち我慢してんのが爆発してもいいってんなら、止めねーけど』
すごまれてリックも反論できず『う゛~~~~』と、唸りながら、ユーファの腕に体を隠した。
マサトは念押しに、一睨みして、ユーファに視線を戻した。
『俺も教えて欲しい。
伴魂なしで人だけで魔法が使えるなんて、初めて聞いた。
どういう仕組みだ?』
ユーファとしてはマサトの質問が意外だったのだろう。
戸惑ってリックを見た。
リックは『えっとぉ~……』と、思慮をめぐらせて、主に変わって返事をした。
『この国の魔法に比べたら、たいしたことないよ?
気にするものでもないと思うけど』
「……何か簡単な魔法を、見せてくださいませんか」
その方が説明がしやすいと思うので。
そう告げるユーファの言葉を聞いて、フィーナとマサトは顔を見合わせた。
意識下の意志疎通で、会話とするまでもなく、何となく、互いの考えていることを感じとって、フィーナはそれを体現した。
「……疾風遊戯」
効果を抑えた風を起こして、近くの木の枝を揺らした。
フィーナが掲げた手の先で巻いた風が、葉と枝を揺らす。
「これでいいのかな?」と戸惑い気味のフィーナに、ユーファは感嘆し、リックは『へー。やるじゃん』と呟いた。
『威力ある魔法はさ、確かにそれなりの力がないとできないけど、あれって力任せにやれば何とかできちゃうんだよ。
逆に力ある奴が微力な効果を出すのって、技術がいるんだよな。
これが精いっぱいってなら、話別だけど。
そうは見えないし』
「確かに、わたくしの国にもごく限られた者ですが魔術を使える者もいます。
その者が、先ほどと同じような魔法を成したとしても、微風程度でしょうし、数日、寝込むでしょう」
『そりゃそうだろ。世の理から外れてることしてるんだから。
やっぱ、反動激しいか』
「世の……理……?」
首を傾げるユーファを見て、マサトは『……ん?』と眉をひそめた。
マサトはリックに目を向けると、リックは首を傾げてじっとマサトを見た。
伴魂同士、しばらく見つめあったあと『なら、話してもいいな』とマサトは呟く。
『ユーファには何でも話していいよー。俺の主なんだから』
ユーファに全幅の信頼を寄せているのだろう。
誇らしげに笑うリックを確認して、マサトはユーファを見た。
『基本、人単体では魔法は成し得ない。
それはこの世界の理だ。
けど実際、魔法は存在する。
この国――サヴィス王国で言えば、伴魂を媒介して魔法を発動させている。
伴魂がいなければ、人単体では魔法は使えない。
――伴魂と言う――この世の理から異質なものを介して、異質な事象を起こしている。
リックから聞いただろ?
生まれ変わる前の話を。
アブルードでの記憶の前にある、人としての記憶を。
この世界とは異なる世界の話を。
伴魂と成りえるのは、魔力を持った動物だ。
黒以外の瞳の色が、魔力を持った動物だとされているが、あれはちょっと違う。
黒以外の瞳の色を持つ動物でなければ、伴魂になれないってのは本当だ。
けど、黒の瞳でも、この世界の動植物は、すべからく魔力を身の内に持っている。
では、瞳の色の違い、伴魂に成りえるか成りえないかの違いは何か。
――瞳の色が黒以外の奴は、他の世界からの生まれ変わりなんだ。
それが、伴魂となれるかどうかの違いだ。
他の世界からの生まれ変わりの動物は、瞳の色が黒以外が多い。
他の世界からの生まれ変わり――異世界転生って言ってるけど、異世界転生したヤツは、この世界の理から少し外れた異質な存在だ。
異質な存在を介して、本来ありえない事象を起こす――。
それが魔法だよ』
 




