25.魔法の作用 13
「解除……?」
思ってもいなかった言葉に、ユーファは目を見張る。
ユーファの反応は、マサトも想定していた。
『こいつ、まだ成長途中なんだ。このままならいいけど、急に伸びるヤツもいるから。
主からの魔力が足りないと、暴走するやつもいる』
『ユーファ……?』
リックも何となくだが話がわかるようで、不安そうに主を見上げている。
自身の伴魂にユーファは「大丈夫よ」と微笑んだ。
「そんなこと、しないから。ずっと一緒にいるから」
『ホントに……?』
『ホントに? ……じゃ、ねーよ。バカ。
そんときはさっさと解除しろや』
呆れたように告げるマサトに、リックが毛を逆立てて威嚇の体勢をとった。
『うるさい! お前には関係ない!』
『我忘れて大好きな王女様殺してもいいんなら、そーしろよ。
王女様も、何「自分がどうにかする。自分がどうなっても止める」……ってな顔してんだ。
止められねーし、王女様が被害受けるだけじゃねーから。
飢餓状態になって、魔力を欲して、我を忘れて無理矢理吸収して。
我忘れてるから、限度以上に魔力を取りこむんだ。
そうして体の内に溜まった、行き場のない魔力が暴発して、村一個――町、下手したら国一個、消し飛ぶかも知れねーんだぞ?
それでも自己犠牲を美談とするか?』
予想もしなかった規模の大きな話に、ユーファもリックも声を失っている。
『じゃ……じゃあっ! そんときはどうしろって言うんだよ!』
『話はちゃんと聞けよ。
そん時はさっさと契約解除して俺ンとこ来い』
『……え?』
思ってもいなかった言葉に、ユーファもリックも目を瞬かせた。
『一応、対処の仕方、知ってるから。
そのためには契約解除しないと、チビ助は主から離れて遠くまで行けないからな。
意識があるうち、ギリギリになる前に解除しろよ。
互いを守るための解除だ。
――互いの体に触れて、互いに魔力を送る意識を持って、互いに解除を願い、認めれば、伴魂と主の関係ではなくなるから』
唐突な話に、ユーファとリックはおどおどと互いを見ていた。
『――って言っても? 万に一つ、そんなことにはならないだろうけど』
『な――なんだよー! 脅すなよバカ-!』
涙目、涙声のリックが、ぽかぽかと小さな手でマサトを叩いている。
その手をマサトは甘んじて受けていた。
『ないだろうけどな。けど、知ってると知らないじゃ、大きく違うだろ?
伴魂の魔力の暴走、主と伴魂の魔力が見合わない時、解除の仕方。
それはこの国では知られてることなんだよ。
王女様とチビ助のは、特異例だけどな。
ああ、そうそう。どうやって契約したかもこの国では言わない方がいい。
奇異の目で見られるだろうから』
『う……。……覚えとくよ……』
「わたくしも……肝にめいじておきます」
そう告げたユーファは、少し考えて「あの」と控えめに口を開いた。
「あなた方とわたくしとリックの契約の成り方が似ているとおっしゃっていましたが……。
あなた方の解除の方法も、一般的ではないのですか?」
『――だったら?』
表情も声も態度も。マサトは和やかに答える。
しかし、敏感な者には気付く警戒心が覗いている。
「やはり……」
マサトの態度に確信して、ユーファは視線を落とした。
視線の先ではリックが、ユーファの腕にぴったりと体をくっつけている。
自身の伴魂の不安が伝わって、ユーファはリックの頬を指で撫でながら話を続けた。
「話さずとも良い解除の方法を、話してくださったのですね。
わたくしどものために。
……あなた方が不利益になるかもしれないのに」
『……否定はしない。
他言しないでもらえるとありがたい』
「当然です」
念のため、ユーファは一般的な解除を訊ねた。
マサトもフィーナも「契約を交わした書面を破棄する」としか知識として知らなかった。
一度結んだ伴魂契約を破棄するなど、そうそうないので詳しい方法を知る者は少なかった。
『今度はこっちから質問なんだが――』
マサトはユーファの伴魂に顔を向けた。
『俺が話せるって、どうしてわかった?』




