23.魔法の作用 11
一応、注進したのだ。聞き入れなかったのは役所の面々で、自分たちに否はない。
フィーナも一抹の懸念はあったが、ユーファも薬草にそう詳しくないだろうと考えて、薬草庭園を「温室」として案内した。
念のため、ユーファから「失礼なことがあっても、不問とする」旨の書類に同意の一筆をもらっていた。
東屋にユーファを招き、東屋から離れた場所に、クレンドーム王国の護衛の席、同じく離れた場所にカイルとアレックス、レオロードの席を急遽、用意した。
彼らの席にも、薬茶と厚焼き卵サンドを準備している。
「口にするかどうか、判断はお任せします。毒は入っていませんよ」
自分たちにも準備された飲食物に、クレンドーム王国の護衛二人は驚きとためらいを覗かせる。
彼らの懸念はわかっていたので、卵サンドと薬茶を出した時、先んじてフィーナはそう告げた。
「ユーファ王女様の許可はもらっています。食べて飲んでかまわないとおっしゃっていました」
護衛二人は、離れた東屋にいるユーファに目を向けた。
ユーファは身ぶり手ぶりで飲食の許可を伝えている。
二人が飲食するかは本人たち任せだ。
フィーナは続けてカイルとアレックス、レオロードにも同じく準備していた。
クレンドーム王国の護衛二人にも振舞ったのは、三人に準備したためでもある。
ユーファ王女が「厚焼き卵サンドと薬茶を所望しているがどうしよう?」とカイルに相談した時。
心配する以前に「自分達も食べたい」表情を覗かせた。
然るべき部署に確認して、許可が下りたと聞くと、うらやましげな表情を浮かべたので、思わず「ついでに準備しようか?」と言ってしまった。
ユーファ王女、カイル達に振る舞うのに、クレンドーム王国の護衛二人だけ「何もナシ」もおかしいので、彼らにも振舞った次第である。
(――王宮の調理師に作ってもらえばいいのに)
フィーナの料理を所望するカイルに、フィーナはそう思ってしまう。
カイルとしては、すでに試しているのだが「何か違う」らしく、フィーナが作った方がおいしいのだという。
その理由はザイルが以前言っていたので察しはつく。
それでも、調理師に作ってもらえば、少々の味の違いがあろうと、満足できるはずだ。
フィーナの作ったものを、顔を輝かせて喜ぶこともなくなるのではないか。
(そう言えば……)
はたと思い返す。
自分で作れてしまうから、他の人が作ったものを食べたことがない。
両親もザイルも、フィーナにマサトから教えられた料理を「作って」と頼むから、皆で食事をする時は「フィーナが作った料理」を一緒に食べていた。
(そんなに違うのかな)
今度試してみようと思いつつ、護衛二人とカイル達に飲食物を出した後、最後にユーファに厚焼き卵サンドと薬茶を準備した。
――ユーファの頼みで、互いの伴魂分も準備して。
伴魂は基本、主の魔力を生命の糧とする。
口から食事は必要なく、フィーナの国、サヴィス王国では経口摂取する伴魂は「主からの魔力が足りていない」と蔑まれ、時には魔法の暴走を危険視される。
伴魂の楽しみ程度、食物を口にすることはあっても、食事として定期的に食すことはありえなかった。
マサトは転生前の記憶から、生命維持の為でなく飲食の楽しみとして口にしていた。
ユーファの伴魂は、そうしたサヴィス王国の伴魂の概念から外れていた。
フィーナが料理と飲み物を出して席に着くと、ユーファが「食事をしながらお話ししましょうか」と提案した。
了承すると『待ってました!』とばかりに、ユーファの伴魂が、厚焼き卵サンドを手づかみしてガツガツと食べ始めた。
『やっぱ、うめー! サンドイッチなんて、こっちで食べれるとは思わなかったよ!』
「あらあら。お行儀が悪いわよ。もっとゆっくりお食べなさい。
誰もとったりしないのだから」
『だって美味しんだもん! ユーファ、食べないならちょうだい!』
「ダメよ。わたくしも楽しみにしてたのだから」
ユーファの皿に手を伸ばそうとした伴魂を、ぺちりと軽く叩いて諌める。
『ちぇー。けちー』
ユーファの伴魂は、口を尖らせて文句を言っていた。
そんな自身の伴魂を、ため息交じりに見たユーファは、顔を上げて、目を丸くして驚くフィーナとマサトに気付いて、苦笑を浮かべる。
「ごめんなさいね。騒々しくて」
『今は隠さなくてもいいんだよね?』
「お話はいいけれど、いたずらしたり、騒いではだめよ」
『はーい』
言って、伴魂は薬茶の入ったカップに口をつけようとするが『あちっ!』と小さく叫んぶと、冷まそうとフーフー、息をかけていた。




