21.魔法の作用 9
フィーナとしても、カイルの同席は――ユーファと歓談していた様子を思い出すと、胸の奥がもやもやしたが「王族には王族」と考えると、カイルが妥当だと思えた。
フィーナの言葉に、ユーファはきょとんと目を瞬かせた。
「わたくし、あなたとは互いに一人でお話しするつもりでしたけど」
「王女様!?」
護衛二人も初耳だったのだろう。
とんでもないと慌てふためく二人に、ユーファは「あら」とにこやかに――それでいて威圧感のある笑みを浮かべた。
「わたくし、貴院校へは一人で見学すると言ってなかったかしら。
なのに、勝手について来たのはあなたたちでしょう?
もともと、使節団の一員として赴く際、護衛も側仕えもいらない、一人で用を成せると言っていたはずだけれど。
――あなたがたの権威を汲んで、ここまで譲歩したのだから、もうよろしいでしょう?
――お願いだから、もう邪魔しないでちょうだい。
あなたたち二人が付いてくるものだから、動きにくくて仕方なかったわ。
一人なら――こうしてすぐにお話しできたでしょうに」
「ですが……」
「空耳かしら。
何か聞こえたようだけれど。
……ああ、もしかしてだけれど、わたくし一人では自分の身も守れないと思っているのかしら。
あなたたち二人がかりで、わたくし一人に敵わないというのに。
奢りも過ぎると、腐臭を纏いますこと」
「た――盾にはなれますっ!」
「――盾……」
反芻したユーファの表情が、一気に冷たくなった。
それまで便宜的にも浮かべていた笑顔まで、すっと消える。
身をすくめた護衛二人同様、フィーナも体を強張らせて肩をすくめた。
「いつ人の盾を求めた? 戦場でもない場所で、わたくしが人命を散らすのを望むと言うのか」
「も――申し訳ございません!」
声を荒げることはなかったが、静かにすごむユーファに、護衛の二人は直立不動で青ざめ、揃って頭を下げる。
その後、ユーファに言われるまま、今後は単独で行動する時もあると了承して、二人はユーファとフィーナから距離をとった。
離れた二人を確認したユーファは――。
「これで信じてもらえたかしら」
と、それまでの威圧感ある雰囲気をがらりと変えて、女性らしいにこやかで花のある、これまでのユーファに戻って、フィーナに告げた。
それまでの経緯を見ていたフィーナは。
「申し訳ございません……。私には王女様のお相手は無理です……」
――と。
これまでのやり取りを目の当たりにして体を硬直させたまま、涙目混じりで訴えたのだった。
「あらあら」
恐れるフィーナを見て、ユーファは「やりすぎてしまったようね」と頬に手を当て、首を傾げて困った様相を見せる。
「あなたに何かするつもりも不利益な状況にさせるつもりもないの。
本当にお話しがしたいだけなのよ。
――なぜか、わからないって顔ね。
もう少しすれば、なぜかもわかるでしょう。
――その為に、二人を遠ざけたのだから」
言って、ユーファが護衛の二人をチラリと見た時――。
つられて二人を見たフィーナの視界の隅を、素早い何かが横切った。
『へへへ~ん♪ 捕まえられるもんなら捕まえてみ~ろ♪』
『――んだとコラァっ! 待てや、クソガキっ!』
『キャハハハっ! 怖い怖い~♪』
笑い声をあげながら逃げるユーファの伴魂を、目を吊り上げるフィーナの伴魂が追いかけている。
ユーファとフィーナの脚の間を、フェレットとネコが素早い追いかけっこを繰り広げていた。
『ユーファ、助けて~♪』
ユーファの伴魂が、主に助けを求めて肩口に登る。
くるりと襟巻のように体を巻きつけて、ユーファの肩口からマサトを見下ろして、ケラケラ笑っていた。
『てめっ! 卑怯だぞ!
――――――って……。
――――――。
――…………あれ……?』
肩口に登ったフェレットを見上げて叫んだマサトは、視線の先にユーファを見て、我に返ったようだった。
ギギギギ……。
と、きしむ音が聞こえそうな固い動作で、自身の主に顔を向ける。
マサトとユーファの伴魂は、人の言葉で話していた。




