20.魔法の作用 8
セクルトの教師陣としては状況を察してフィーナを休ませたいのだが、ユーファに貴院校見学を許した役人に対する手前「休ませている」と公言できない。
(意図的に体調不良……水風呂……)
冷たい水風呂に飛び込んで体を冷やして、風邪をひいたと言えればいいのだろうが……寒いのが苦手なフィーナには、捜索の苦難から逃れられるとしても、試す勇気はなかった。
薬屋を営む家だから、常々「体調を崩さないように」と対処する癖がついてる。
対処しなければいいのだろうが……いつもしていることを、敢えてしないのも気持ち悪い。
逃げ続ける大変さを我慢するか、意図的に体調不良となる苦難に挑むか――。
「むー……」
と考えつつ、公衆トイレを出た時だった。
「フィーナ!」
不意打ちだった。
「え?」と聞き覚えのない声に、その方を反射的に見ると、ユーファが胸の前で両手を合わせて、目を輝かせてフィーナを見ている。
「なっ……!」
なななんでどうしてどうしてなんで!?
動揺して伴魂であるマサトを呼ぼうと周囲を見渡しても、近くにマサトの気配を感じない。
お手洗いの中まではマサトも同行を避けていたので、外で待っているはずだった。
離れた場所から、フィーナの動揺を感じ取ったマサトの驚きと焦り――。
(――『っ! やられた!』)
(――「やられた!? って、何を!?」)
(――『王女様の伴魂に注意してた。王女様の伴魂はこっちにいる――』)
マサトの言いたいことを、フィーナは察した。
マサトはユーファの伴魂の気配がわかるから、その察知能力でユーファとの接触を回避しようと言っていた。
ユーファを見ると、確かに、首元に纏っていた伴魂の姿がない。
マサトはユーファの伴魂を見張っていた。
――ユーファの伴魂が、主と別行動をとったと知らずに誘導されたのだ。
(――『ぁああっ!? ……んだと、コラぁっ!』)
マサトから、苛立ちと怒り、ユーファの伴魂が、からかうようにマサトを笑っている様子もうかがえる。
ケタケタと笑って、罠にひっかかったと、マサトを茶化している。
「リック。おいたしちゃダメよ」
諭すように苦笑交じりに呟くユーファから、彼女も伴魂同士のやり取りを感じ取っているとわかった。
驚いて見つめるフィーナに、ユーファは苦笑交じりで首を傾げた。
「怖がらないで。
あなたの立場を悪くさせるつもりも、危害を加えるつもりもないの。
少しだけ、お話しする時間をもらえないかしら」
フィーナが否を唱えられるはずもなく。
不承不承、了承したのだった。
了承したものの、ユーファとの対話の前に、フィーナはいくつかの確認事項とどうしても譲れない条件を出した。
「カイル殿下を同席させてください」
それは確認事項の部分に関連するものだった。
フィーナの確認事項は「①いかなる無礼な振る舞いも不問にする」「②言葉づかいに礼儀、敬語なし」「③国の不利益になると思えるものなど、答えていいかどうか、わからないものについては話さない」「④以上の事項に同意した書面を交わすこと」。
カイルの同席を求めたのは、③への対処の為だ。
含めて、カイルが同席するなら、護衛騎士も同席するだろう。
そうして、同席する身内を増やして置きたかった。
――というのも「無礼を許す」と言いつつ、反故される危険性を避けたかった点もあった。
それらが許されるなら会談に応じると話した。
一国の王女に対して「ふざけるな」と言われてもおかしくない条件だった。
フィーナとしては、怒ってくれたほうがいい。
こちらとしては、ユーファと接しないように逃げ続けていたのだ。
ユーファも、それは察している。
そのように、無礼な振る舞いをしないよう、避けてきた人間を捕まえたのだから、粗相くらい見逃してくれ。
そうした思いで提示した条件だった。
ユーファについていた護衛は、出された条件に眉をひそめたが、ユーファは「それくらい当然」とばかりにすぐ承諾した。
――ただ。
「カイル王子を同席――ですか」
「私もサヴィス王国民一人で応じるのは心細いので……」
ユーファは無礼な振る舞いより、カイルを同席に難色を示すユーファが意外だったが、フィーナも引けなかった。
ユーファ側は護衛二人は同席するだろう。
粗相があったなかったの水かけ論となった時、フィーナ一人では太刀打ちできない。
最低限でも、そうした状況を避けたかった。




