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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第二章 セクルト貴院校
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7.魔法授業後の事情聴取


 午後は魔法の授業を終えれば、二日目の授業は全て終えるはずだった。


 ……だというのに。


(なんで……)


 と、フィーナは教室中央の席に座って、体を小さくしていた。


 教室中央の席にフィーナとザイルが座り、対面する席にダードリアが座っている。


 その二人を取り囲む円形状に、同じクラスの生徒が机と椅子を配置して座っていた。


「確認しておきたいことがあります」


 教室を出て寮に戻る準備をしていたフィーナに、ダードリアが声をかけたのが始まりだった。


 魔法の授業でのことだと、フィーナは察しがついていたので、迎えに来たザイルを窺うように見上げた。


 何かあればザイルが話をすると、申し合わせていた。


 了承したザイルを見て、カイルが「自分も同席したい」と言いだし、ザイルが了承したのを機に「私も」「僕も」と、他の生徒も申し出て、結果、現況に至ったのだ。


 対面しているのはダードリアだが、クラスメイト全員に尋問を受ける心地だ。


 足元ではネコが、丸くなって寝ているフリをして、聞き耳を立てていた。


 フィーナの動向をうかがう面々を確認して、ダードリアはフィーナに尋ねた。


「先ほどの魔法の授業の件だけど――」


(きたっ……!)


 フィーナは肩をすぼめて体を小さくした。予想通りの展開だ。


「なぜ点火ランカではなく燃焼レンショウだったの?」


「先生が『燃やす』ようにと言ったので……」


 思ったままを口にしたのだが、ダードリアは眉を寄せている。


「なぜ点火ランカではなく? 点火ランカと言ったはずだけれど」


(……ん?)


 言っている意味が、よくわからない。


 よくよく見ると、ダードリアは不機嫌の表情を覗かせている。


 『燃やす』ことを求められていると思っていたが『点火ランカ』を求められていたようだ。


 会話とダードリアの表情から想定できたことに、フィーナは顔を両手で覆って上方を仰いだ。


(だったら、そう言ってよっ!)


 内心思いつつ、


(……あれ、言ってたっけ……)


 とも思う。


 燃やすことを求められたが、点火ランカでは無理。


 矛盾した要求に、フィーナはダードリアの意思を汲み違えたのだ。


 フィーナはどう答えればわかってくれるのか、戸惑っていた。


 魔法の授業には居合わせなかったザイルが、状況説明をフィーナに求めた。フィーナの気持ちを聞いて


「ふむ」


 と考えたザイルが、今度はダードリアに尋ねた。


「話は聞きましたが、授業では点火ランカと燃やす、どちらを試したものでした?」


「――点火ランカです」


 聞かなくてもわかるだろうと、ダードリアは眉をひそめる。


「結果は?」


「エルド嬢を除く2名の生徒が火がつきました」


「それをどう考えています?」


「――能力の差かと」


「違います」


 フィーナがザイルとダードリアのやり取りに割って入る形で口を開いた。


 が、ザイルに「黙りなさい」と底暗い冷笑で告げられて、不承不承、口をつぐんだ。


 小さくなって口を閉ざすフィーナを確認して、ザイルは再度、ダードリアに尋ねる。


「ではあなたは、火を上げることができた者の点火ランカが優れていて、火が着かなかったものはそうではない。――そうした認識であるということですね」


「――はい。これから鍛錬が必要ということだと認識しました」


 言いつつ、ダードリアはちらりとカイルを窺い見た。カイルも今回は火が上がらなかった部類だ。


「わかりました」


 告げたザイルは、手にしていた小袋の中から、数本の小枝を取り出した。


「どうしてそんなの、持ってるの?」


 小声で尋ねるフィーナに、ザイルは


「私もここの授業は経験しています。こうした状況はある程度、予想していたので」


 準備していたのだという。


 男性の大人の親指ほどの太さのある枝が6つ、ザイルが面する机の上に置かれる。


 ダードリアはザイルの行動に眉を寄せる。


 そうしたダードリアの不信感を知りつつ、ザイルは席を立つと、彼女の机に枝を一つ、カイルの机に枝を一つ、残る枝を無作為に選んだ生徒の机の上に置いた。


 枝を置かれた面々は、ザイルの意図を計りかねて戸惑いをにじませている。枝は肘から指先までの長さがあった。


「――カイル殿下。折ってみてください。簡単にできますよ」


 ザイルに指名されて、カイルは言われるまま折ってみた。


 ――パキン


 ザイルが言った通り、簡単に折れた。


 それからザイルは名を知らない、枝の置かれた生徒に同じ行動を促した。


「折れますよ」


「折れないでしょうね」


 それぞれが行動を起こす前に、ザイルが告げて行く。


 ザイルの言ったように事が運ぶ様は、予言のようでさえあった。――フィーナとネコだけは、そう思っていなかったが。


 ダードリアはザイルの「折れない」と告げられ、実際、そうなった。


 なぜと問うダードリアに、ザイルは「乾燥の差ですよ」と答えた。


「十分乾燥されていればたやすく折れてしまいますが、乾燥が不十分だと、折るのは難しくなるのです。

 火をつける際も、同じ状況になります。

 乾燥が不十分な枝木が混在していたら、燃焼は難しいですよ」


 そう言ってザイルはフィーナに目を向けた。


「そうした前提を踏まえて。なぜ燃焼レンショウを唱えたのです?」


 フィーナはどう答えていいのかわからず、口ごもっている。


 ザイルは


「思ったように言ってみなさい。補足しますから」


 と言ってくれたので、思っていたことをそのまま言ってみた。


「生木が混じっているようだったので、点火ランカでは無理だと思いました」


「見てわかるのですか」


 と、ダードリア。


 頷いて「家の手伝いをしていましたから」とフィーナは告げる。


「言われたのは点火ランカで枝木を燃やすだったので、迷いましたが、火を上がる手段を講じました。……そうした対応を求められていると思ったので」


 今回はそうした先読みがあだとなってしまったが。


「あの――」


 生徒の一人が手を上げた。


前詞アンセルを唱えていないようでしたが」


「そうですが」


「そのようなことができるのですか」


「簡単なものは前詞アンセルなくとも可能です。……逆にお聞きしますが、全て前詞アンセルを唱えるのですか?」


 尋ねるフィーナに、クラスの面々は頷いて肯定を示した。


 面食らったのはフィーナだった。


 フィーナの戸惑いを察して、ザイルが補足した。


「フィーナの暮らしていた環境と、我々が育った環境に違いがあるのです」


 ザイルの補足に頷いて、フィーナは続けた。


点火ランカ前詞アンセルなしに、誰もが使えていました。人によっては呪文ルキさえ必要のない人もいました」


「フィーナの側で共に生活をして驚きましたが、彼女の話は本当です。

 誰もが前詞アンセルなしに点火ランカを使っていましたが、逆に炎系列の魔法は点火ランカしか使えない。

 点火ランカは食事を作る際などに必要だったので、一日に数回、使用します。

 それによってなせるようでした。

 ……彼らにとっては鍛練のつもりはなく、生活の一部でしたが。

 この中に点火ランカを毎日、しかも数回唱えていた方はいらっしゃいますか?

 ああ、もしかしたら、各家の料理長は前詞アンセルを必要としないかもしれませんね」


 その他、ザイルは「村人で前詞アンセルを必要としないのは、系列内でも簡単な魔法一つだけ。同系列の他の魔法を知らない時」「使用頻度が高いもの」等告げた。


 逆に貴族は一つの系列でも様々な魔法を使用するので、使い分けと集中の為にも前詞アンセルを使っているのだと、ザイルの考えを明かした。


 こうしてダードリアだけでなく、クラスの者も含めた話の場を許したのは、市井の民と貴族籍の人間の環境の違いを明らかにするためでもある。


「市井の民」と侮っていたところへの、まさかの熟練の功に、クラスの生徒からフィーナへ興味深い視線が注がれる。


 フィーナはその視線が居心地が悪くて仕方ない。


 注目されるような人間ではないのだ、自分は。


 その想いがぬぐえなかった。


 最後に、ザイルはダードリアに目を向けた。


「私もセクルトの卒業生です。

 弟たちも同じ学び舎を卒業しました。

 授業の在り方も存じていますが、できることなら、今日の授業は『規定外』としてもらえないでしょうか。

 好成績だった方には申し訳ありませんが、状況を知る限り、能力の差というより運の差だと思いますので」


 能力が秀でているのなら、これからも好成績を修められますよ。


 と、付け加えるザイルに、ダードリアは目を伏せて息をついた。


「言われずとも状況は理解しましたし、今日の結果は参考にはしても、結果として残すつもりはありませんでした」


 言って、ダードリアは残っているクラスの生徒面々を見渡して


「今日の結果は白紙とします」


と告げた。


 しかしそれでは好結果を残した面々のやる気を削ぎかねないので、少々のプラス要素はあてがった。


 そうして話が一段落したところへ、生徒の一人がおずおずと手をあげて「あの……」と尋ねた。


「お二人はどのような御関係なのですか?」


(――しまっ……っ!)


 しまった。


 フィーナがそう思いながら、ザイルの口を閉ざそうと彼の腕を引いて、気を逸らそうとしたが――間に合わなかった。


 よくぞ聞いてくれた。


 そう言わんばかりの満面の笑みを浮かべて


「エルド嬢の家で雇われているのですよ」


 と、自慢げに言うものだからタチが悪い。


 市井の民が、貴族籍の人間を雇用する?


 通常、あり得ない構図に、誰もが思考が追い付けないというのに、ザイルはエルド家が脈々と受け継いでいる知識と、薬草の素晴らしさを説明し続ける。


「……お願いだからやめて……」


 と、懇願してもやめないザイルを知って、室内に在籍する面々から、同情の眼差しを受けることとなった。


 ザイルが投下した爆弾は、それだけではなかった。


「フィーナの姉はアルフィード・エルド嬢ですよ」


 ……フィーナは本当に、なぜそんな話の展開になったのか、記憶にない。


 勝手に話し続けるザイルの言葉を、声は聞こえども意味を理解しない、そんな聞き流しし続けて「アル――」との単語にハッとして、止めようとしたきには、すでに遅かった。


「「「『ドルジェの聖女』の妹!?」」」


 驚きの声が重なって。


 フィーナはもう、どう答えていいのかわからず、悟りを開いた僧侶の様相よろしく、何事にも動じない様相を呈しながら、もう好きにしてとの心地で小さく「――はい」とだけ、答えていた。





もっと会話だけで話が進んでいくのを想定したんですけど。

クラス皆がいる中で話をするのは想定してましたが「あ。ザイルも迎えにくるんだっけ」と思ってから、こんな話になりました。

う~ん。あまり事情聴取っぽくなかったですね。

てか、ザイルがからめ手で主導権、持っちゃってるし。


毎日書き続けてはいるんですけど、きりのいい所まで。となると、文量が必要で、数日おきの更新となってしまってます……。

ブックマークが少しずつ増えてきていて、ありがたく、嬉しい限りです。

反応が見えるのが嬉しいです。


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