表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第七章 伴魂とこの世の理
348/754

17.魔法の作用 5


 フィーナは「外交をスムーズに」と思ってのことだったが、結果、カイルの点数稼ぎになっているのではと思えたのだ。


 それからカイルとユーファは、和やかな歓談をしつつ、食事をとった。


 ユーファはサヴィス王国の料理いくつかを珍しそうに口に運びつつ、調理法や材料に関して訊ねていた。


 カイルが答えていたが、カイルもわからないものは食事を運んだ調理人が答えていた。


 ユーファが最も興味をそそられたのは、フィーナが準備した、厚焼き卵サンドだった。


 ナイフやフォークを使わず、手づかみで食べるよう勧められ、ユーファは戸惑う。


「貴院校の生徒が授業の一環として調理したものです」


 貴院校の学びの場を知りたいユーファに答えようとしたのだとの意思を見せる。


 フィーナが作ったと告げるカイルに、ユーファが驚きの眼差しをフィーナに向けた。


(――貴族籍の方や、王族の方々が調理するなんて、ないものね)


 拗ねた想いで、フィーナは小さく頭を下げるに留めていた。


 すすめられるまま、卵サンドを口にしたユーファは、いたく気にいったようだった。


 肩に乗っている伴魂にも分け与えていた。


 卵サンドを口にした伴魂が、機嫌よさげに尻尾を振り、手をのばしながら小さな声を上げ、おかわりを要求していた。


 食後にフィーナの薬茶が振る舞われた。


 薬茶はユーファの護衛分も準備されていた。


 飲む飲まないは個々人任せとした。


 警備上、護衛は振る舞われた飲食物に口を付けない規律があると、サヴィス王国側も理解している。


 同じポットからそそがれた薬茶を、カイルとフィーナが口にしたのを確認して、ユーファが口にする。


 調理場にあった、柑橘系の果物を使用した、急ごしらえの薬茶だったが、ユーファはその風味を気に入ってくれた。


 ユーファが護衛の者たちに進めて、彼らも不承不承口にする。


 口にした彼らも、これまでに口にしたことのない風味に驚きつつ、受け入れてくれた。


 ユーファが何度かフィーナに声をかけたが、戸惑うフィーナにカイルが助け船を出して、結果、フィーナは答えずにすんでいた。


 ――それさえも。


 フィーナにはカイルがユーファと話したいが為の行為に見えていた。


 ユーファの貴院校見学は、魔法の授業から昼食までの時間限定だった。


 彼女らは使節団としての公務もある。


 午後からはそちらの公務にあたるとのことで、食事を終えると散会となった。


 談話室から出たユーファを見届けたカイルは、それまでの好印象をかなぐり捨てて、疲労困憊の様相でテーブルに突っ伏した。


 護衛騎士のアレックスとレオロードが、カイルの心情を察して、側に駆け寄り、体調を案じている。


 カイルの伴魂も心配そうにカイルを伺っていた。


 室内に残る、誰もがカイルの心労をねぎらっている。


 フィーナだけが、カイルが疲弊しているのを理解できなかった。


(楽しくおしゃべりしてただけじゃない――)


 談話室に入った瞬間、目にしたユーファとカイルの歓談姿が忘れられない。


 そんなフィーナの感情と異なり、彼女の伴魂であるマサトも『お疲れさん』と、カイルの側でそっと耳打ちしていた。


 マサトの感情は、フィーナにも共有される。


 しかしフィーナにはマサトの感情に共感できなかった。


 大変だったのは、私なのに。


 急に食事と飲み物を準備してほしいと頼まれて、成し遂げたのに。


 これまでだったら、成し遂げたことへの礼を欲したことはなかったのだが……今はなぜか、頑張った自分を認めてほしい思いに駆られていた。


 カイルをねぎらい、心配する面々が囲う中、フィーナはその場から、カイルを見ているだけだった。


 ただじっと――胸の内にうずまく感情を抱きながら強張る体で、カイルを見ていた。


 項垂れていたカイルも、しばらくすると上体を起こして、側にいる面々に「大丈夫」と答えていた。


 答えながらも、疲労困憊の様相は残っている。


 答える中、ふとフィーナへ顔が向けられた。


 強張った表情のフィーナを見たカイルは、驚きにわずかに目を見開いたあと、同席する面々に、フィーナと護衛騎士、アレックスとレオロード以外の退室を命じた。


「貴院校生徒として――ユーファ王女との接触時の注意点を話しておきたい」


 カイルの言葉に従い、談話室にはフィーナとカイルとアレックス、レオロードだけが残った。


 ――カイルとフィーナ、二人の伴魂も。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ