12.人の姿をした伴魂 12
「殿下と会談の後、殿下の母君、王妃様が来室なされました。
王妃様に従って入室した者です。殿下と話す様子から、臣下の者だと思っていましたが……」
王妃とも挨拶と雑談を少々交わした後、王妃の側仕えと思える男性と話すに至った。
通常、側仕えの者が王族に、それも他国の王族に話しかけるなどありえない。
しかし彼は、ルディとサラが話している隙をついて、話しかけた。
ユーファとしても、王妃と共に入室している点から、供の者か親族だろうと思っていた。臣下の身分の者が声をかけてくるはずないだろうとの思いから、親族だと判じて、話に応じた。
話したのは短い間だった。
その短時間に、彼はユーファの本当の願いを知り、叶える術となるだろう策を告げたのだ。
策を聞いたユーファは戸惑った。
しかし彼はあっけらかんと告げた。
「大丈夫。僕が話を通しておくから」
「孝弘っ! 無礼をするでない!」
「無礼なんてしてないよー。ちょっとお話ししてただけだよ?」
「それ自体、そなたには許されておらんのだぞ!」
王妃と対等に話す男性に、ユーファは呆気にとられていた。
王妃からの苦言を受けながらも、彼はつとユーファに目を向けて「大丈夫だから」と声なく口の動きで伝えた。
彼から聞いた話を、半信半疑に思っていたユーファだったが、王妃との接し方からそれなりに身分のある者だと判断した。
彼が話を通してくれるだろう。
(――大丈夫かしら)
一抹の不安を覚えていたのも、また事実。
しかしその事実から敢えて目を背けたくなるほど、彼の提案は甘美なものだった。
(――大丈夫。王妃様とルディ殿下、お二人と親しげに話されている方だもの。
身元のしっかりした方なのだわ――)
そう思って、そして彼に提案された簡易な魔術を成したのだ。
ユーファの話を聞いて、カイル俯いて額に手をあてた。
事情を理解した上で「どうすればいいのだ」と途方に暮れる。
フィーナはそうしたカイルの様子を感じながら、フィーナ自身も「これ、どうしたらいいの?」と困っていた。
(――『あ……っんの、クソボケナス……っ! 出来レース仕込みやがった!』)
(――「出来レース?」)
(――『王女様の不意打ちに対処できるの、フィーナとカイルだけだとわかってて、王女様をそそのかしたんだろ!』)
マサトの苛立ちと怒りに満ちた激しい感情が伝わってくる。
ギリギリと歯ぎしりするマサトの感情を意識下で感じながら、それが誰へあてたものなのか、鈍いフィーナでも察しがついた。
第二王妃、サラの伴魂だとのたまった、黒髪の男性。
小澤孝弘。
ユーファの行為は、彼が画策したことなのだろう。
(――「私とカイルが対処できるって、どうして知ってるの?」)
ルディ及び第二王妃に関係する者とは、ハロルド絡み以外、接点はなかった。
貴院校の成績は知られたにしても、護身の熟練度を披露する場はなかったはずだ。
首を傾げるフィーナに、マサトは苦々しく告げた。
(――『ある程度、把握してんだろうな。あと……俺もだけど、伴魂には、他の主とその伴魂の繋がりが何となくわかるんだよ。繋がりが密接、強いほど魔法の熟練度は高い。隠そうにもにじみ出てしまうもんなんだ』)
それで孝弘がフィーナとカイルの能力をある程度、理解していたはずだとマサトは言う。
フィーナとマサトが意識下で話している間、カイルはしばらく手で額を抑えて、思案を巡らせていた。
ため息を落として手をはずすと、セクルト貴院校の教師陣に顔を向けた。
ユーファと生徒たちが座っていた席や教師陣に目配せをすると、教師陣もカイルが言わんとすることを察して、最年長の教師が首を横に振った。
――ユーファが言っていた「試す」話を聞いていたのか。
目配せで訊ねたカイルへの教師陣や王族縁の者の返事は「否」。
孝弘が「通す」と言っていたものが通っていない。
それが孝弘が「①何も行動していなかった」為なのか「②行動したが、通らなかった」からなのか。「③通っていたが、伝達されていなかったのか」で対応がかわってくる。
③だった場合、ユーファの行為を「外交時の会談としてあり得ない」と無下に出来ない。
現状の外交として、非常に対応の難しい場に、カイルが居合わせている。
――その事態を招いたのは、第二王妃の伴魂だとのたまった者だ。
第一王子、ルディを推進する派閥の気配を用心しつつ、カイルはユーファに向き合った。
ユーファとしても想定していなかった事態なのだろう。
戸惑う彼女の様子を見て、カイルは自分の立場、国同士の関わり、外交などに思慮を巡らせながら「――それで」と口を開いた。
「あなたは何をなさりたかったのですか」
カイルの意図を感じながら、ユーファは慎重に答えた。
「――貴国の学問制度を知りたかったのです」
「お話しはあったかと存じます。
何も特定の生徒から聞く必要はないでしょう。
誰に聞いても、内容は同じかと思われます。
――個人的能力の差は、個々人によるもの。
国として応じるものではありません」
「全体的な制度についてではないのです。
――いえ、それも知りたいことではあるのですが……。
最初に申したように、私を生徒と同じく扱って頂きたいのです。
叶うなら、この学び舎で共に学びたいと思うほどに。
私が知りたかったのは――伴魂を用いて成される魔術に関してです」




