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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第七章 伴魂とこの世の理
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12.人の姿をした伴魂 12


「殿下と会談の後、殿下の母君、王妃様が来室なされました。

 王妃様に従って入室した者です。殿下と話す様子から、臣下の者だと思っていましたが……」


 王妃とも挨拶と雑談を少々交わした後、王妃の側仕えと思える男性と話すに至った。


 通常、側仕えの者が王族に、それも他国の王族に話しかけるなどありえない。


 しかし彼は、ルディとサラが話している隙をついて、話しかけた。


 ユーファとしても、王妃と共に入室している点から、供の者か親族だろうと思っていた。臣下の身分の者が声をかけてくるはずないだろうとの思いから、親族だと判じて、話に応じた。


 話したのは短い間だった。


 その短時間に、彼はユーファの本当の願いを知り、叶える術となるだろう策を告げたのだ。


 策を聞いたユーファは戸惑った。


 しかし彼はあっけらかんと告げた。


「大丈夫。僕が話を通しておくから」


「孝弘っ! 無礼をするでない!」


「無礼なんてしてないよー。ちょっとお話ししてただけだよ?」


「それ自体、そなたには許されておらんのだぞ!」


 王妃と対等に話す男性に、ユーファは呆気にとられていた。


 王妃からの苦言を受けながらも、彼はつとユーファに目を向けて「大丈夫だから」と声なく口の動きで伝えた。


 彼から聞いた話を、半信半疑に思っていたユーファだったが、王妃との接し方からそれなりに身分のある者だと判断した。


 彼が話を通してくれるだろう。


(――大丈夫かしら)


 一抹の不安を覚えていたのも、また事実。


 しかしその事実から敢えて目を背けたくなるほど、彼の提案は甘美なものだった。


(――大丈夫。王妃様とルディ殿下、お二人と親しげに話されている方だもの。

 身元のしっかりした方なのだわ――)


 そう思って、そして彼に提案された簡易な魔術を成したのだ。


 ユーファの話を聞いて、カイル俯いて額に手をあてた。


 事情を理解した上で「どうすればいいのだ」と途方に暮れる。


 フィーナはそうしたカイルの様子を感じながら、フィーナ自身も「これ、どうしたらいいの?」と困っていた。


(――『あ……っんの、クソボケナス……っ! 出来レース仕込みやがった!』)


(――「出来レース?」)


(――『王女様の不意打ちに対処できるの、フィーナとカイルだけだとわかってて、王女様をそそのかしたんだろ!』)


 マサトの苛立ちと怒りに満ちた激しい感情が伝わってくる。


 ギリギリと歯ぎしりするマサトの感情を意識下で感じながら、それが誰へあてたものなのか、鈍いフィーナでも察しがついた。


 第二王妃、サラの伴魂だとのたまった、黒髪の男性。


 小澤孝弘。


 ユーファの行為は、彼が画策したことなのだろう。


(――「私とカイルが対処できるって、どうして知ってるの?」)


 ルディ及び第二王妃に関係する者とは、ハロルド絡み以外、接点はなかった。


 貴院校の成績は知られたにしても、護身の熟練度を披露する場はなかったはずだ。


 首を傾げるフィーナに、マサトは苦々しく告げた。


(――『ある程度、把握してんだろうな。あと……俺もだけど、伴魂には、他の主とその伴魂の繋がりが何となくわかるんだよ。繋がりが密接、強いほど魔法の熟練度は高い。隠そうにもにじみ出てしまうもんなんだ』)


 それで孝弘がフィーナとカイルの能力をある程度、理解していたはずだとマサトは言う。


 フィーナとマサトが意識下で話している間、カイルはしばらく手で額を抑えて、思案を巡らせていた。


 ため息を落として手をはずすと、セクルト貴院校の教師陣に顔を向けた。


 ユーファと生徒たちが座っていた席や教師陣に目配せをすると、教師陣もカイルが言わんとすることを察して、最年長の教師が首を横に振った。


 ――ユーファが言っていた「試す」話を聞いていたのか。


 目配せで訊ねたカイルへの教師陣や王族縁の者の返事は「否」。


 孝弘が「通す」と言っていたものが通っていない。


 それが孝弘が「①何も行動していなかった」為なのか「②行動したが、通らなかった」からなのか。「③通っていたが、伝達されていなかったのか」で対応がかわってくる。


 ③だった場合、ユーファの行為を「外交時の会談としてあり得ない」と無下に出来ない。


 現状の外交として、非常に対応の難しい場に、カイルが居合わせている。


 ――その事態を招いたのは、第二王妃の伴魂だとのたまった者だ。


 第一王子、ルディを推進する派閥の気配を用心しつつ、カイルはユーファに向き合った。


 ユーファとしても想定していなかった事態なのだろう。


 戸惑う彼女の様子を見て、カイルは自分の立場、国同士の関わり、外交などに思慮を巡らせながら「――それで」と口を開いた。


「あなたは何をなさりたかったのですか」


 カイルの意図を感じながら、ユーファは慎重に答えた。


「――貴国の学問制度を知りたかったのです」


「お話しはあったかと存じます。

 何も特定の生徒から聞く必要はないでしょう。

 誰に聞いても、内容は同じかと思われます。

 ――個人的能力の差は、個々人によるもの。

 国として応じるものではありません」


「全体的な制度についてではないのです。

 ――いえ、それも知りたいことではあるのですが……。

 最初に申したように、私を生徒と同じく扱って頂きたいのです。

 叶うなら、この学び舎で共に学びたいと思うほどに。

 私が知りたかったのは――伴魂を用いて成される魔術に関してです」





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