5.人の姿をした伴魂 5
フィーナの言っている意味が本気でわからなくて、マサトは目を点にして、声と言葉を失った。
「だって、向こうの世界の、しかも同じ国の世界の人なんでしょ?
そんな人、これまで会ったことなかったんでしょ?
仲良くなりたいと思うものじゃないの?」
『えーと。アブルードには同郷者、結構いたから心配すんな。
さすがに国まで一緒ってのはなかったけどな。
そりゃ最初は元同世界ってよしみで、便宜を図ったりしてたけどさ。
結局は「出生より今現在の人と成り」だよ。
同郷懐かしんでも、裏切るやつは裏切る。
生まれがこっちでも義理がたいヤツは、一杯の水の施しに、自らの体を盾に俺を助けようとして答えようとしてくれるのもいた。
生まれに対するノスタルジーは考えるな。
結局は一個人同士の関係だ』
……と、話しながら、マサトは自分の主の表情の変化に気付いた。
フィーナはマサトの話が進むにつれ、難しい表情となり、次第に眉間の皺が増えていく。
『過去は関係ない。大事なのは今だよ』
マサトの言っていることは何となくわかるが、感情面で理解できない。
そうしたフィーナの気持ちを汲んで、マサトは簡潔に説明した。
マサトの説明を聞いて、フィーナも納得した。
その後、いくつかの確認事項を経て、その場は一旦、解散しようとした時だった。
「あの……」
そっと開いた扉から顔をのぞかせ、中を伺う女性が声をかけた。
銀色の髪、銀色の瞳、白磁の肌。
年の頃、二十代後半から三十代前半と思しき女性が、室内を伺っていた。
カイルの居住区に居ること、その容姿から王族に縁ある者とすぐにわかった。
顔だけがのぞいている状態だが、フィーナとマサト以外は彼女が誰か、すぐにわかった。
サリアは椅子から立ち上がると最上級の挨拶を送り、カイルは席を立って女性の側へ行くが、挨拶はしない。
カイルの後方に控えていたアレックスとレオロードは、すぐに最上級の挨拶を送った。
彼女が誰かわからないが、フィーナはサリアに倣って最上級の挨拶を送る。
(――「誰?」)
日ごろフラフラしている伴魂は、様々な場所で遭遇した(遠目に見たも含む)貴族籍の顔を見知っている。
マサトなら知っているかと思ったが、伴魂は首を振って知らないと示した。
側に行ったカイルが、女性に何か話している。
諭そうとしているようだったが、女性は首を振っていた。
彼女を「だだをこねる子供のよう」と感じて、カイルは「子供を諭す親」のように見えた。
結局、カイルが根負けしたようだった。
うなだれるカイルに、女性はぱっと表情を明るくする。
一度、部屋の外に行ったかと思うと、すぐに入室してきた。
彼女の後ろには使用人が二人続いて、使用人の手には人数分のお茶セットが揃っている。
彼女は指示してフィーナとサリア、カイル、彼女の分、そして護衛二人の分も、使用人に円卓と椅子を準備させ、お茶を振る舞った。
彼女はカイルとフィーナの間に、同じ卓に向かって座る。
サリアは彼女が誰か知っているようだ。緊張が伝わってくる。
カイルと話す素振り、彼女の外見から導き出せる年齢から、フィーナはカイルの親戚筋の女性だと思っていた。
「母親?」とも思ったが、それにしては若すぎる。
自分の母であるロアやこれまで接した同級生の母を思い起こして「それはないか」と思った。
王族の血筋由来の容姿を有した彼女は、朗らかに笑いながら、フィーナとサリアに向かって口を開いた。
「初めまして。
あなたたちの話は、カイルから聞いているわ。
いつか会ってみたいと思っていたの。
偶然だけれど、こうして叶って、私、とっても嬉しいの。
あなたたちからいろいろ聞きたいことがあるんだけれど……いいかしら?」
終始、朗らかな笑みをたたえ続け、本当に嬉しそうに話しながら、小首を傾げる動作も愛らしい。
ほわほわと、愛らしい小動物のような仕草を目の当たりにしたフィーナは、衝動的に抱きしめたい感情を覚えつつ「いやいやいや」と自分自身を制していた。
おそらく貴族籍の方だろう。
その方を抱きしめるなど……落ち着け自分。
モフモフは伴魂で我慢しとけ。
……などと、自分自身を戒めつつ、接していた。
彼女は用意したというお茶をフィーナ達に振る舞う。
出されたお茶に口をつけたフィーナとサリアは、目を見張って顔を見合せた。
「これって……」
「気付いた? そうなの。カイルがあなたからもらったものを、私が煎れてみたの。
どうかしら?」
女性はフィーナを見て問いかける。




