2.人の姿をした伴魂 2
「あの場を切り抜けるためとはいえ、相談なくあんなことを言って、すまなかった」
『調査団が暴走した時の対処の手段の一つとして、カイルから相談受けてんだけどな。
使うことないだろうと思ってたから、フィーナには言ってなかった。
……まさか、あそこまでバカなヤツが調査団にいるとは思ってなくてな』
「権威を持たされたことなどなかったから、舞い上がったのだろう。
権威の乱用は危惧されていた。実際、そうなってしまったが……。
陛下の意向の権威を翳しても、王の子の近しい者だから、俺の許可なく接することないように。――と、対応しようと考えていた」
口出しできる状況としては、カイルと恋仲だと示すのが最短の道だった。
セクルトでは「同学年の生徒は出生に関係なく平等である」との理念の元、身分差の恋も存在していた。
学生の時で終わる淡いものがほとんどだ。
将来の約束はなくても、今現在の仲として、周囲に影響を与えられる。
人目をはばからない触れ合いを、はしたないとされているため、仲を全面に出すことはないのだが、無理をごり押ししたオズワルドのような輩には、ひそめいてた部分を表にするしかなかった。
――との形式をとりたかった。
「オズワルドも下手な手出しはしないはずだ。
……もっとも。
余計なことをしてしまったかもしれないが」
言って、カイルは落ち込んだ様相を見せた。
「結局、オズワルドは第二王妃様――サラ様が取り成しで、引き下がった。
打たなくてもいい手を打ってしまった」
肩を落とすカイルを、サリアが助言する。
「第二王妃様が、あの場にいらっしゃるなんて、思ってなかったもの。
調査団の方を退けてくれるとも思ってなかったし。
……正直、やっかまれていると思っていたから……」
秘匿すればレイダム領の収入源となり得たかもしれない情報を、公然に、つまびらかにしたのだ。
サリアはサラがカジカルの話題を口にした時、嫌みを言われる覚悟をしていた。
しかし思ってもいなかったところで、父への賛辞を得る。
「お父様から聞いていた話だと、サラ様とは険悪な議論を度々されていたそうだから、お父様への心象も私への心象も、良くないと思っていたの。
お褒めの言葉を頂くとは思っていなかったわ。
……何だか、お父様が女性であったような方よね、サラ様って……」
ルディがレイダム領の領主を庇っていたが、実際、レイダム領が発展したのは、サラの功績が大きいのだろう。
告げてサリアは、同時に思い出したことを口にした。
「そう言えば……。サラ様絡みでお父様は機嫌が悪くなることはあっても、サラ様を非難することはなかったような……。
あれは、お父様が御自身に腹を立てていらっしゃったのかしら……」
サリアが知らないところで繰り広げられていた攻防では、ガブリエフが機嫌を損ねるのは、サラに「してやられた」時だった。
彼女は特異な交渉をしたのではない。
人の――貴族籍の面々の「暗黙の了解」「敢えて確認する必要のない常識」の死角をついて、相手が受け入れざるをえない状況へ導いていた。
ガブリエフは、議論の途中から、彼女が考える終着点に気付き、そうせざるをえない状況を、歯がみしていた。
権力に固執しないが、個人的な矜持は高いのだ、我が父は――。
第二王妃であるサラが擁護してくれるとは想定できなかったのだから、落ち込まなくていいとカイルに告げる。
「申し訳ありません。結局、エルド嬢とカイル様はそういった関係なのでしょうか」
カイルが宣言した当初から、ずっとそわそわしていたアレックスが、我慢できずに発言する。
同じ護衛であるレオロードが「言葉が過ぎる」とアレックスを諌めた。
「けど、俺たちには重要だろ、そういうとこ」
「下世話な話は慎め」
「下世話!? どこがだよ! じゃあ聞くけどさ!
殿下がフィーナ嬢とサリア嬢を守れと命じられた時、どちらも同じ危険な目にあったとして、俺たちが優先すべきなのはどちらだよ!?」
「それは――」
アレックスの言葉に、レオロードは言葉に詰まった。
降りたった沈黙に、アレックスは口を尖らせてレオロードに抗議する。




