1.人の姿をした伴魂 1
◇◇ ◇◇
「あああああっ!
もう、何がどうなってんの!?」
カイルに案内された部屋に入るなり、フィーナはマサトに叫んだ。
カイルはルディと第二王妃の住居区画を出ると、王城にある自分の住居区画へ皆を連れ立った。
王城にはそれぞれの王妃に居住区が与えられている。
王都内で王子王女は、母となる王妃に与えられた区画で生活していた。
フィーナ以外はそうした事情を知っている。
案内された場所もカイルの――第三王妃の居住区だと知っていた。
アレックスとレオロードは、護衛関連で、第三王妃の居住区は隅々まで把握済みだ。
そうした、通常では足を踏み入れない場所に来ているというのに、フィーナは自身の伴魂に感情任せに叫んでいる。
状況から察するに、案内された場所を「客室」か「休息場」と思っているのだろう。
そうであったとしても、それは「第三王妃の居住区内」の前提が付くのだが、フィーナは王城の区枠分けを知らないので、万人が使用できる場所と思ったようだ。
――王城の見取り図は極秘事項になっているので、フィーナが知らないのも道理なのだが。
カイルが人目、傍聴を避ける場所にどういったところを選ぶのか。
少し考えてほしい。
――と、アレックスとレオロードは切に思う。
フィーナと同じ年であるサリアは、状況に思い至って、緊張に体を固くし、そわそわと周囲を伺っている。
粗相をしないようにとの気配りが感じ取れるものだった。
サリアは宰相の娘で、フィーナより知り得るものも多い。
だからカイルが案内した場所がどういったところか、察しがつくのだろうとも思う。
――だが、それにしてもだ。
「カイルが案内した場所」という点を考慮して、カイルがくつろいでいいと言うまで、楚々とした対応を見せて欲しかったと、アレックスとレオロードはため息交じりに思う。
フィーナはカイルに案内された部屋に入るなり、腕に抱いて連れてきた自身の伴魂を「ていっ!」と放り投げた。
伴魂のマサトも、主のそうした行為に慣れているのだろう。
特に驚いた様子もなく、身軽に地面に着地して眉をひそめた。
『いきなり何すんだ』
「何すんだ。――は、こっちの台詞でしょぉぉぉおおっ!
そっちこそ、いきなり何してくれてんの!」
『そのことは後で話すって言っただろ』
「今話して! 今すぐ聞きたいのよ、こっちは!」
ヘイ、カモン!
……的な雰囲気を出して、フィーナはマサトに腕を広げて下に出した腕を空に向けて、上向いた手で招く、挑発じみた行動をとる。
サリアが「ちょっと……落ち着きましょう?」と声をかけたが、フィーナには聞こえていない。
「サラ様に何したの!?
あの男の人が『自分は伴魂』なんて変なことを言うようなこと、しでかしたんでしょ!?」
『俺がやらかした前提かー。
何もしてねーよ。
言ってることも本当だ』
「本当なわけないじゃない!
からかったんでしょ!?
マサトが変なこと言ったから!」
詰め寄るフィーナに、マサトはそれ以上、何も言わなかった。
無言で、つと、周囲に目を向けるマサトに、フィーナも次第に高ぶっていた気が静まって、少しずつ、周りの状況が見えるようになっていった。
視線はフィーナに集まっている。
「え……と……あれ?」
ようやく冷静になったフィーナは、肩をひそめてキョドキョドと周囲を伺う。
「落ち着いたか?」
カイルが嘆息して訊ねた。
フィーナは頷いて、すすめられるまま、用意された円卓に腰を降ろした。
四人がけの円卓に、カイルとフィーナとサリア、マサトはフィーナの隣で円卓の上に座った。椅子に座ると顔が見えないためだ。
護衛二人はカイルの後方に並んで立っている。
部屋の外には別の護衛が立っていた。
お茶を出した使用人が下がって、他に人がいなくなってから、カイルは口を開こうとしたが――何から話せばいいのか、戸惑いを滲ませる。
『第二王妃絡みは俺が後で話す』
マサトの助言を受けて、カイルはフィーナに目を向けて、言葉を発した。




