59.ルディの答え 15
何から聞けばいいのか、何から話せばいいのか。
わからず、口を閉ざしているマサトにしびれを切らせて、孝弘はため息交じりに肩をすくめて――左手の通路にちらりと目を向ける。
視線の先には、マサトを追ってきたフィーナ達の姿が見えていた。
「時間がないから、僕から話すよ。
君のことは知ってるよ。
フィーナ・エルドの伴魂でしょ。
名前は知らないけど」
『――マサト』
「……ん?」
『俺の名前は、雅人だ』
告げるマサトに、孝弘は満足そうな笑みを浮かべた。
そう話したころ、フィーナ達があと十数メートルほどの距離に来ていた。
駆けてきた彼らが側に来るのに時間はかからず、マサトの側に来た時に、孝弘と呼ばれた男性は続けてこう告げた。
「僕の名前は小澤孝弘。
君と同じく、この世界に来る前は、日本で生活していた。
できればいろいろ話したいことあるけど、今は時間がないんだ。
話しが聞きたいのなら、応じるよ。
僕たちが聞きたいことを、君たちも答えてくれる条件でね。
――あ、そうそう。
向こうの世界の知識は、君たちの専売特許じゃないからね?
僕もそれなりの学問は修めてるから。
――あとは。
雅人。君の感じているように、僕はサラの伴魂だよ。
それを確かめたくて、とんできたんだろ?」
小澤孝弘と名乗った男性は、マサトに話しながら、しかし内容はフィーナを含む、カイル、サリア、アレックス、レオロードにも聞こえていた。
聞こえるように話したとした思えない。
「僕がサラの伴魂だとは、他には秘密だからね。ルディも知らないから。
まあ、言っても信じないだろうけど」
――と、呆然と立ち尽くすフィーナ達に、口元に真っすぐに立てた人差し指を添えて、声量を落として付け加える。
他の者に言えるわけがない。
言っても鼻で笑われるだけだ。
人が伴魂だと、信じるわけがない。
そうした状況になることもわかった上で明かしたのだろう。
目の前で告げられても、マサトとフィーナ以外は「何を世迷言を」と信じていなかった。
無下にできないのは、マサトの神妙な様子と、マサトの感情を感じ取るフィーナが、自身の伴魂を見て戸惑いを滲ませているからだ。
「……とにかく、この場から離れよう。話は後ほど」
告げるカイルに応じて、ルディの――第二王妃の居住区内を後にした。
後日。
クレンドーム国の使節団が来訪した際、王女との会食はルディが応対した。
結果、ルディを次期王位継承者へと水面下で蠢く者達の動きが、一時的に弱まった。
ルディ自ら進言して王女との会食を行ったことで、ルディに「争ってまで王位継承する意志はない」との考えが伝わったためでもあった。
事実、それがルディの意志だった。
オリビアが愚鈍な統治者となるなら、遠慮なく王位を奪う心づもりではある。
今のところ、オリビアは王として必要な素地を見せている。
それを混ぜ返すつもりはルディにはなかった。
母である第二王妃、サラとルディの全ての基盤である、レイダム領が安寧であれば、それでよかった。
そうしたルディの意志をほの見せた会談の前に。
フィーナ達は状況把握に頭を抱えることとなったのである。
ようやく!
書けました、人型伴魂。
これは当初から考えていた設定でした。
(……でも、孝弘は直前に湧いて出たキャラですが……)
自分でも「猫と月の夜想曲」は世界が広がりすぎて、登場人物が多すぎて、どうなるのか、どこへ向かうのか、最後まで話しが書ききれるのか、収拾つくのか。
戸惑いつつ、書いてます。
書いた当初、大きな事象として考えてる事柄があります。
その事象のために、登場人物が多くなり、人の背景、世界観の説明も増えていってます。
終着点を見据えて邁進しています。
不思議と、考えてる終着に続く大きな事象は変わらないんですよね~。
中身が微妙に変わったりするけれど。
この話をUPしたら、あらすじを少々変更予定です。
ラストに考えている事象を、あらすじに書いてもいいんですが、予告詐欺は避けたいので、本文に掲載してから変更しています。




