56.ルディの答え 12
「して。
確認作業は誰が行っておる?
身分が確かな者でなければ、煙にまかれかねぬぞ?」
サラに言われて、カイルもはっとした。
貴族籍は階位に準ずる。
上位の者に「黒を白と言え」と言われれば「白」と言うしかない。
ハッとしたが――ザイルの性格上「煙に巻かれる」心配はしていなかった。
「ザイル・ベルーニアに任せています」
「ザイル……ベルーニア?」
呟くサラは眉をひそめている。
呟いて、フィーナに目を向けた。
――視線を、フィーナの膝に抱かれるマサトにも向ける。
「そう言えば――そなたの、セクルト入学時の同伴者だったか。
よほど親しいようだな。
――そうか。
あれなら権威に屈するなどなかろうが……よう身内に引きこんで手なずけたものだ」
言って、サラはしげしげとフィーナを眺める。
サラに直視されたフィーナは「え? え?」と気が動転していた。
最初は緊張していたが、話が進むにつれ「自分には聞かれないだろう」と、気を抜いていた。
そこへ急に話を振られて、焦ってしまう。
「ロイヤルナイツも辞退した変わり者ぞ?
弱みでも握っておるのか?」
ロイヤルナイツ。
その言葉に、カイルとサリアは驚いている。それがどういったものか知っているが、ザイルがそうした立場にあった事実を知らなかった。
フィーナは「ロイヤルナイツ」がどういったものかすら知らない。
知らないが「何か握っているのか」とのサラの問いに、反射的に叫んでいた。
「いいい胃袋! 胃袋掴んでいます! 多分!」
サラは思いもしない返答に、きょとんとしていた。
ザイルとフィーナのやり取りをこれまで目にしている面々は、フィーナの言葉に今さらながら「納得」する。
周囲の表情に気付いたサラは、口元に扇子をあてて、くつくつと笑いつつ、フィーナの言葉を受け入れた。
その後、いくつかの確認事項を行い、サラは「所用の為」と足早に部屋を後にした。
「……お忙しいようですね」
颯爽と現れ、颯爽と消えていく。
慌ただしい第二王妃に、カイルは驚きを拭えない。
「領の管理もされているからな」
ため息交じりにルディは告げる。
ルディの言葉に、カイルは驚き、それを感じたルディは慌てて言い募った。
「だいたいは領主に任せているのだ。
ただ、領主は穏やかな性格で、のんびりされた方で……」
いろいろと言いわけを考えていたルディだったが、良い答えを思いつかず、諦めて正直に話した。
「領主は穏やかすぎる性格が災いして、早急を求める事態の対処には対応しきれない。
母上の性分上、人に任せるより自分が動いた方が早く事が進むと思えば、行動してしまう方だからな。
最近は王都とレイダム領を往復する日々だ。
私にも任せてくれればと思うが――母上の手腕には届かぬ為、進言できぬ」
「それは――女性が成さねばならぬことなのでしょうか」
戸惑いつつ、カイルは口にした。
言わない方がいいのではとも思いつつ、知らないのならば助言すべきだと思えたのだ。
母と第一王妃――と言うより、母との関わりから見た第一王妃の行いから、王都に在籍する女性ならではの攻防があると、カイルは感じている。
第一王妃も第三王妃も、基盤とするそれぞれの領の統治は、親族がきちんと取り仕切っている。
領の統治は男性の持ち分。
女性には社交場を通じての攻防があるはずだ。
第二王妃が領の統治にかかりきりとなれば、社交場での立場及び統制すべき関係者を野放しにしてしまうのでは。
カイルの言いたいことはルディも察した。
慣例を盾にした忠告でなく、第二王妃とルディを案じる気持ちを感じて、ルディも正直な気持ちをカイルに告げた。
「基盤を整えるのが先だろう。致し方ない。承知の上だ。
レイダム領は、何の繋がりもなかった他国の姫を、無条件に受け入れ、後見となってくれた。その者達に尽くすのは、人として当然だろう?」
ルディの言葉に、カイルは驚いて――告げる内容に異を唱えるわけもなく、頷いて、同意を示した。
 




