55.ルディの答え 11
「この場は私室ゆえ。堅苦しい作法には構わずともよい。
私が許す」
サラはそう告げたが「そうは言われても」とフィーナとサリアは戸惑いを深める。
それでも、許される範囲があるだろう。それの線引きがわからず、不用意な言動をとれなかった。
しかしフィーナとサリアの戸惑いは杞憂に終わる。
話の大部分はサラとカイルのやり取りだった。
内容はルディに話した、ドルジェで見つけた報告書についてだ。補足的にフィーナも聞かれたが、数個の内容だった。
サラは国王からドルジェの報告書の話を聞いていたようで、話のほとんどは報告書がいつ作成されたか、報告の手順を確認していた。
国王から聞いていたが、どうしても納得できない箇所があり、それを確認したかったらしい。
ルディがカイル達を招くと知っていたので、同席するつもりではあった。
所用で遅くなった結果、オズワルドの入室を許してしまった。
「不快な思いをさせて、すまなかったな。
わらわが居れば、入室を許さなかったのだが。
ルディにも詳細を話してなかったから、対処できなかったのだろう」
「エルドの聴取は必要ないとの通達を知っていれば、退けたのですが――。
通達を受けても、素知らぬふりを通した方がいかがなものかと思いますが。
厚顔無恥にもほどがあります」
「通達されたのは数日前だったからな。
後で判明しても「入れ違いとなった」などと弁明するつもりだったのであろう。
通達にはわらわも連名しておる。
受け取った知らせも届いておった。
あれもそれを知っていたから、わらわには誤魔化せなかったのであろう」
そう言って、サラは嘆息する。
「調査団は、突貫で作られたものだ。
連なる面々を見れば、機能するとは思わなんだが……権威をカサに私利私欲に走るとは、想定すらしておらんかったわ。
カジカル対策の調査の為と称して王都で無銭飲食、物資の徴収。
それらが調査の為に必要だったのだと、確固たる理由を示せとしても、万人が納得する説明などできぬだろうが。
せめて「各地の状況を調査するために、無銭乗車致しました」であれば、納得できるものを。
徒労も費やさず、上手いところだけかすめ取ろうとの神経がいけ好かん」
調査団の素行はルディとカイルも噂として知っていた。
しかしサラは実情まで把握している。
話からそう判断したルディが、おそるおそるサラに訊ねた。
「結局――調査団は何をしていたのですか?」
「調査するふりであろ。
そこなエルドの話を聞きだせば、事足りると思っておったようだ。
王都の書庫に籠っておったが、文献を探るふりをしていたとしか思えんわ。
――して、カイル殿下。
ドルジェからの報告書は、確かに上がっておったのか?」
サラと話し慣れないカイルは、急に聞かれて体を強張らせつつ、返答した。
「報告の経緯を辿って確認中ですが、王都に届いているところは確認できています」
「本来、陛下に報告書は届くはずだな」
「――そう、聞いています」
各地の獣害被害対策は、通常の報告とは異なる経緯で成される。
内容如何で各地に通達するしない、通達速度は早急か通常かを国王が判断する取り決めとなっていた。
報告に気付かなかったならば、国王の責となってしまう。
国王の権威を落としかねない事態を憂慮して、サラは細かな確認作業を行っていた。
「スチュードがそのようなミスをすると思っていなかったが――。
フォールズならばな……」
サラの呟きに、サリアは反射的にびくりと身震いした。
視界に映ったサリアの身ぶるいに、気付いたサラが苦笑してサリアに告げる。
「ガブリエフ・スチュードはそなたの父だったな。
案ずるな。
スチュードの手腕には何の疑いもない。
私利私欲なく、成すべきこと成してゆく姿は、すがすがしく、称賛に値する」
思ってもいなかった場所で得た賛辞に、サリアも気が動転した。
「あ……ありがとう、ございます」
そう告げるのが精いっぱいだった。




