52.ルディの答え 8
「なぜそなたに話さねばならぬ?
そなたは父上の意向で行動しているのだろう。
取るべき行いは、父上から通達があるはずだ」
カイルの言葉に、オズワルドは口を閉ざした。
カイルの言うように「フィーナ・エルドからの聞き取り以外の調査も成すように」と通達されている。
それは調査すると言いながら、フィーナ・エルドの話を聞けばそれで十分な成果を得られるだろうと、他の方法を模索しようとしない調査団の行動が目についたための忠告だった。
国王が望む調査は成されないのに「国王の意向だから」と調査にかこつけて、必要ない所で権威をかざしていた。
カイルはそうした事情までは知らなかったが、フィーナを連れ出されたくない一心で話していた。
カイルもオズワルドの思惑は感じていた。
この場から連れ出され、聞き取りとして密室に入ったらどのようなことをされるのか。
フィーナを人として見ていない眼差しから、容易に想像できる。
しかしオズワルドも必死だった。
「自分が聞き取りし、陛下に報告する義務がある」
と、引かない。
終わりの見えない会話に苛立ったカイルが、たまらずこう告げた。
「それほど父上の意向だと言うなら、直接報告に伺う」
誰が。――とは出さなかったが、カイルはフィーナと共に直に話の場を設ける状況を想定した。
告げて、ハッとする。
言った後で、それが困難だ気付いた。
カイルは親子の関係から、望んで都合がつけば、いつでも接見できる環境だった。
その環境に、フィーナがおまけで加わる状況が思い浮かんで、思わず口にしたのだが、元々、家族以外面会すら難しい国王に、しかも市井出身者が目通り叶うなど、ありえない。
オズワルドも、フィーナが国王と面会などできないとわかっているのだろう。
にぃ……。――と、薄気味悪い、不気味な笑みを浮かべる。
「そうですか、そうですか。陛下に直接奏上なさいますか。
しかし、どうでしょう。
カイル殿下同席なさるにしても、許可がおりますかな?」
言葉の裏に「無理だろう」との思いが見える。
普通なら無理だが――。
(フィーナなら、可能だろう)
そう、カイルは思う。
フィーナはセクルトで学年トップの学業を保持している。
姉のアルフィード、サリアとガブリエフ、カイルやルディ、オリビアとの関わりなど、フィーナの人間関係から身元保証は堅実だ。
事情を話せば、興味を持った国王陛下から面会の話が出てもおかしくない。
だが――。
なぜかオズワルドには、そうしたフィーナの状況を明かしたくなかった。
伴魂が希少だと周知されている。
それ以上の情報を、オズワルドに知られたくなかった。
調べれば簡単にわかってしまうことだが「調べよう」との意識を持たないよう、フィーナ個人に興味を持たないようにしたかった。
そうした状況で思いついたのは――。
カイルはフィーナに足元で、オズワルドに毛を逆立てるマサトにちらりと視線を送った。
マサトも何かしら気付くものがあったのだろう。
カイルの視線に気付いて顔を上げる。
カイルはマサトに目配せした後、オズワルドに口を開いた。
「父上も会われるはずだ。
フィーナ・エルドは――」
言いながら、カイルはフィーナの手を掴んで、その体を引き寄せた。
「――え?」
カイルの行動を想定していなかったフィーナは、なされるがまま引き寄せられ、傍らに立った。
そのまま肩に手を回され、密着する距離に抱き寄せられる。
驚いて、反射的に体を離そうとするフィーナを、カイルが力を込めて抑えた。
同時に、フィーナの意識にマサトの声が届く。
(――『カイルに任せろ』)
離れようとしたフィーナは、その声で反射的に行動を止めた。
間近にいるカイル、掴まれた手、肩に回された手――。
密接するそれらを感じて、フィーナの鼓動はどくんと跳ねあがる。
カイルを意識して、顔も体も熱くなった。
それだけでもフィーナには想定外のことだというのに、カイルが告げた内容は信じられないものだった。
「――私の、想い人だ」




