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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第六章 フィーナとドルジェと市井の生活と
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49.ルディの答え 5


「カイル、そなたが会談を望んでいるのなら意向に沿うが」


「いえ。……それは……望んでおりません。

 ……漏れ聞こえる話は聞いていましたが、どうしたものか思案していたので、兄上が受けてくれるのならば助かります」


 正直な心根を告げるカイルに、ルディは口元に小さいが意地の悪い笑みを浮かべる。


「向こうがカイルを望むやも知れんぞ?」


「御冗談を――。

 私は話術に長けておりません。経験も不足しております。

 会談に出ても、上手く話せるとは思えないのです」


 下手なことを言って、国同士の問題になるかもしれない。


 ルディはカイルの言い分に理解を示した。


 カイルの年齢だったころを振り返ると、会話による駆け引きで思ったように上手く返せていなかった。


 使節として派遣されるクレンドーム国王女は、カイルと年が近いと言われているが、他国の公式の場に顔を出すのだから、それなりの手腕があるのだろう。


 外交手腕も考慮して、ルディはクレンドーム国王女との会談に自分が対応すると告げた。


 ジェイクもダンケットも異論を唱えられず、甘んじて受け入れる形となっていた。


 話の区切りがついた時だった。


 部屋の外が騒々しくなったのは。


 止める声とそれを叱責する声。


 止める声を振り切って扉は開かれ、新緑の背の中ほどまでの長さのある外套を纏った中年男性が「ルディ殿下!」と興奮した様相で入室したのだった。



        ◇◇      ◇◇



 小柄で細身。カイルと同等ほどの背丈、白髪交じりの薄茶色の髪は、緩やかに波打って、頬の辺りで切りそろえている。


 こけた頬、眼球が異様な生気に満ちて、ギョロリと周囲を見渡した。


 彼が部屋に入った時、フィーナとマサトは、ぞわりと背筋が総毛立った。


 奇異さはハロルドも感じたのだろう。


 全身の毛を逆立てて、低く唸りながら、男性に警戒心をみなぎらせている。


 室内の誰もが、唐突に割り込んできた男に躊躇しているにもかかわらず、当人は周囲の雰囲気に気付いていない様子で、臆することなくルディに一目散に歩み寄った。


「お久しぶりにございます。敬愛なるルディ殿下様」


 最上級の挨拶を送り、ルディも躊躇と眉をひそめながらも挨拶を返した。


「オズワルド。何用だ? 呼んだ覚えはないが」


 ルディは彼を知っていた。


 オズワルド・ジーフル。


 学者として王都でそれなりに知られている貴族籍の者だった。


 貴族籍の階位は高くもなく低くもない。


 中流の部類だった。


 本来、オズワルドは事前にルディの許可を得ることなく、室内に入出は出来ないはずなのだが、今の彼にはそれが許される状況であった。


 肩にかけた深緑の外套。


 それは国王が任じた調査団一員の証しだった。


 オズワルドは調査団の長でもある。


 調査団の目的である「カジカル被害の対処法調査」に関連するならば、国王と同じ権限を有していた。


 後に国王も「愚策」と認める騒動に至ってしまったが、当時は調査団の愚行が国王の耳まで届かず、普段、手にしたことのない権力に自制心を無くした所属者達が愚かな行いをしてしまった。


 国王陛下の意向だと旗を振られては、ルディも部屋から追い出しにくい。


 当たり障りのない、けれど核心をついた言葉でオズワルドを退出させたかったのだが、そうはいかなかった。


 せわしなく周囲を見渡していたオズワルドは、フィーナを見つけると喜んで側に近寄った。

 





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