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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第六章 フィーナとドルジェと市井の生活と
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42.文献探し 37


「どう、とは?」


「え?」


 訊ね返されると思っていなかったジークは、戸惑いつつ、おずおずと口を開いた。


「不当な扱いを受けていないかと――」


 それに関してはカイルは「心配ない」と答えた。


 自分が把握している限りではと申し添えつつ、サリアをちらりと見て、彼女とのやり取りから察しがつくだろうと暗に示した。


 カイルの言いたいことを察したジークとマーサは、安堵に表情の強張りを緩めた。


 ジークはもう一つ、気になることをカイルに訊ねた。


「試験で――やらかしていませんか?」


「やらかす?」


 どういう意味だと訊ねるカイルに、ジークは事例を上げて説明する。


「魔法の試験で、試験官を椅子ごと吹っとばしたり――」


「ちょっ、ジーク! それ今関係ない!」


 過去の惨状を暴かれたフィーナが、顔を赤くしながら、わたわたと弁明する。


 ジークとしてはフィーナに止められるのがわからなかった。


「けど、そういう変わったことされると、嫌がられるだろ?

 アル姉はそつなくこなしただろうけど、フィーナ、そういうとこ、頓着ないから「出来るからしました」ってなっちゃうだろ。

 俺たちの時は、笑い話ですんだけど、セクルトではそうはいかないだろ?」


「フィーナ、魔法の授業になると、いつもやりすぎてたじゃない。

 悪目立ちしてるんじゃないかって、ジークと心配してたのよ?」


 マーサもジークの援護射撃をする。


 二人に過去のおいたを暴かれ、心配されて、フィーナも「うぐうぐ」と反論できずにいた。


「試験官を、吹っとばす?」


 状況を理解できないカイルが、ジークの言葉を反芻した。


 カイルの言葉に、ジークは頷いた。


「ええ。中児校の魔法の卒業試験の時。疾風遊戯ヴェルヴィンの試験で、風が強すぎて校長先生、椅子ごと飛んでったよな」


「ええ。

「ちょっと試してみたかった」……って……試験で試さなくてもいいんじゃない?」


 ジークにマーサが賛同した。


 中児校の魔法の卒業試験は、疾風遊戯ヴェルヴィンでそよ風を起こすものだった。


 それがフィーナの場合、想定外の規模だった。


「校長先生、木の上にひっかかったからよかったけど、降ろすのも大変だっただろ?

 そういうこと、セクルト貴院校でもしてないかって、心配になるだろ」


 中児校と小児校の校長は、兼任が普通である。


 カジカルの報告書の件もあって、校長がどうした人となり、容姿かはカイルも聞いていた。


 高齢で小柄。一つ一つの動作に時間がかかる年齢で、細身で、吹けば飛んでしまうような人――。


 そう聞いていたカイルは、ジークとマーサの話から、状況を想像してしまい、思わず吹き出してしまった。


 一度こぼれ出た笑いは我慢できず、驚いた顔を向けるフィーナ、ジーク、マーサ、二人の護衛に「気にしないでほしい」との意味合いを込めて、手を上げながら、顔を背けて口元を手で覆い、笑いを我慢するのに必死だった。


 ひょろりと細身の高齢者が、疾風遊戯ヴェルヴィンで飛ばされて木に留まる――。


 カイルはなぜかその状況が想像でき、同時に笑いのつぼにはまってしまった。


 ひとしきり笑った後、カイルは自分を伺う面々を見た後、ジークに顔を向けて、カイルは答えた。


「大丈夫だ。おおむね、変わりない」


「変わり、ない、ですか……」


 意味を図りかねるジークに、カイルは重ねて告げた。


「やらかす時はやらかす。」


 カイルがすがすがしい表情で、ジークの言葉を借りて告げると、ジークとマーサは「やっぱり!」との表情になり、フィーナはカイルに向かって「何言うの!?」と動揺を見せた。


「限度を考えろって、あれほど言ってただろ!?」


「考えてたわよ!」


「今度は誰を吹き飛ばしたの!?」


「そんなこと、してないから!」


燃焼(レンショウ)で火柱はあげたけどな」


 ジークとマーサにやりこまれている中。


 ぽそり。と告げたカイルの投下に、フィーナは青ざめ、ジークとマーサは口調を強くした。


「「フィーナ!!」」


「っはいっ! ごめんなさいっ!」


 ジークとマーサに叱責され、頭を抱えて小さくなるフィーナを、カイルはくつくつと笑って、愉快そうに眺めていた。


 そうしたやりとりを、護衛の二人は呆然と眺め、他の面々も、後で事情を知ったのである。




「文献探し」はこれで一応の区切りとなります。

あともう少し、エトセトラ的な部分でドルジェで話が続きます。

ドルジェでの話は、カイルに市井の雰囲気を感じてもらう目的もありました。

ジークとマーサの関係を目にするところなど。

書いている方としても、カイルの成長を感じる部分があって、書き手としても不思議な感覚であり、嬉しくもあります。

そして。

ドルジェを舞台にした、もう一つの理由も次回、少しだけ判明します。

細部までは明かされません。先に続く布石です。

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