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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第六章 フィーナとドルジェと市井の生活と
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39.文献探し 34


「……そうだな」


 カイルが口にできたのはその一言だけだった。


 それから二人は森を出ると書庫へ向かった。


 卵を確保したザイルも書庫へ来ていた。


 ザイルにマーサとジークを夕食に招いていいか許可をとって、加えてリオンとロア、ターシャも同席できるなら共に夕食を頼んでみた。


 大所帯をザイルは拒否はしなかったが、怪訝な顔をする。


 フィーナはにんまりと笑うと、後ろ手に隠していた雪原草の花をバッと顔前に掲げた。


「雪原草。これで試したいことがあるの」


 雪原草の生花はザイルも初めて目にする。


 雪原草に驚きつつフィーナの提案を受け入れた。同時に「雪原草の本を探して」と言われて、眉をひそめたものの「夕食作るから、時間ない」と告げるフィーナに渋々従った。


 それからフィーナは思いついたことを実行する為に段取りをする。


 両親に夕食の話と雪原草の生花を見せて、頼みごともしていた。


 昼食を済ませると、フィーナは先にザイルの借家に戻って夕食作りにいそしんだ。


 厚焼き卵サンド以外の料理をターシャに頼んで、共に夕食を作っていく。


 今日はターシャも夕食を共にできるという。


 ターシャ推薦のパン屋に、朝の内に人数分のパンを頼んでいた。


 想定外の人数が増えてしまったが、そこは一人分の厚焼き卵サンドの数を減らして、ターシャの料理に空腹を受け持ってもらう。


 厚焼き卵を作るフィーナの手さばきに、ターシャは感心しつつ、自分の役割をこなしていた。


 料理ができたころ、書庫にいた面々、エルド家家族、マーサとジークが到着した。


 ザイルが満足し、他の面々も舌づつみを打つ夕食を堪能した後、フィーナは女性陣を呼び集め、寝室でこそこそ作業する。


「男子禁制」として、秘め事を成しているかと思えば、時折歓声が上がった。


 女性特有のキャッキャウフフのやり取りを部屋越しに感じつつ、取り残された男性陣は身の置き所のない心もとなさと、そわそわして落ち着かない気持ちを抱いていた。


 しばらくして、女性陣がぞろぞろと寝室から出て来る。


 嬉しげな表情を浮かべる者もいれば、恥ずかしげな表情を浮かべる者もいる。


 機嫌良く、満面の笑みを浮かべるフィーナは、そそそ。とザイルの元へ近寄ると、彼の足元にいたマサトにも声をかけた。


「ほら! 綺麗でしょう?」


 言って左手の甲を掲げて見せる。


 手の甲には、白い紋様が描かれていた。


 白い紋様は、鮮やに発色している。


 フィーナの手を見た男性陣は、感嘆の息を漏らしていた。


「雪原草ですか」


 昔、フィーナと一緒に調べたザイルはすぐに理解した。


 フィーナが真っ先にザイルに見せたのは、雪原草について知っているからだ。


 ザイルに「探してほしい」と頼んだ本には、雪原草の花について書かれていた。


 祭事に使用する紋様、願い事、その他、意味合いを持つ、様々な紋様が記されていた。


 ザイルが探した本は、リオンとロアに渡され、二人はフィーナからあらかじめ聞いていた手順で、花弁に紋様を写していった。


 仕事柄か、リオンとロアは手先が器用で、写生も得意だった。


 リオンとロアは、頼まれた数ほど準備して、夕食参加に合わせてフィーナに手渡したのだった。


「一度試したかったんだよね~」


 フィーナは上機嫌だ。


 マーサとサリア、アルフィードは、それぞれの手に描かれた紋様を見惚れるように眺めている。


 ロアとターシャは「年がらでもない」と恥ずかしそうにしながらも、眺める表情は嬉しそうだ。


 雪原草が生息している国では、花の色を写す装飾は、女性特有のものとされている。


 ザイルは好奇心から、フィーナの手をとると、様々な角度から眺め、紋様を指でなぞって落ち具合を確かめていた。


「ちょっ、ザイル。くすぐったい」


 ひゃひゃひゃ。


 ……と笑うフィーナに、ザイルは気になったことを告げた。


「簡単には落ちないようですが……色を落とす時はどうするのですか?」


「え?

 どうして落とさないといけないの?」


 首をかしげるフィーナを見て。


「……え?」


 他の女性陣は、ピシリ。と硬直したのだった。





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