36.文献探し 31
書庫の管理は自分が受け持つから自由に行動していい。
マサトは良かれと思って言ってくれたのだろうが、フィーナには「余計なお世話」でしかなかった。
同時に、フィーナもわかっている。
新たに増えた本の中に、マサトが喜ぶものがあったことに。
(自分が読みたいだけじゃない)
それを言えば、フィーナも続きが気になっていた探険物語を読みたい。
この前帰省した時にはなかった続きが追加されていた。
仕方ないから、セクルトに持っていって読もう。
そんなことを考えながら森を歩いていると「おい」と背後からカイルに声をかけられ、肩をつかまれた。
「はい!?」
驚いて振り返ると、そのフィーナに驚いたカイルが目を見開いて「前」とつぶやいた。
言われた方を見ると、目の前に樹木がそびえている。
「ぶつかるぞ?」
「あ……。ありがと……」
ぎこちない笑みを浮かべてカイルに礼を告げ、樹木を避けるとそそくさと行く先に進み出て、カイルと一定の距離をとる。
近づけば早足で前に進み出て、話しかければ答えるものの、カイルを見ようとしない。
これまでなかったフィーナの態度に、さすがのカイルも勘付いた。
そして思う。
そうではないのだと。
注意したのは自分だが、行き過ぎた行為を改めてもらいたかっただけだ。
フィーナは心を許した相手なら誰でも、同じ行動をとるだろうと思えたので、それを控えるよう、改めるよう告げたつもりだった。
セクルトでそうした行為をなさないように。
日常まで改めるよう言ったつもりはなかった。
しかし。
完全に裏目に出たと、内心、カイルは肩を落とした。
フィーナに注意した時は、カイルも動揺していて、上手く伝えられなかった。
突き離すように告げただけだ。
思い返しても後悔しかない。
フィーナはカイルが嫌がっていると――カイルに対して気をつけなければならないと思ったのだろう。
それは、告げた後のフィーナの行動を振り返ればわかる。
カイル以外の異性には、フィーナはこれまでと変わりなく接している。
ぎこちない態度、挙動不審となるのはカイルに対してだけだ。
フィーナのあからさまな態度に気落ちしつつ、けれど告げた後悔は感じていなかった。
気を許している相手であっても、あの時のような行為はして欲しくない。
しばらく歩いた森の中で、サンザシの木を見つけたフィーナが足を止めて、カイルに示した。
フィーナより頭一つ分低い木だった。
赤い実を鈴なりにつけているが、これでも時期が最後なのだという。
大きさも、これ以上は育たないだろうとフィーナは告げた。
「これなら、移植できそうだな」
大木でなくてよかったと安堵の息をつくカイルに、フィーナが首をかしげた。
「移植?」
「兄上の敷地に植えれば、いつでも手にできるだろう?
そうすれば、フィーナも兄上と極力接触せずにすむだろうから」
「あ……」
言われて、思い至った。
ルディにハロルドへのサンザシの実を渡すと話していたのだ。
「敷地内に樹木があれば、兄上も便利だろう。
フィーナも、今しばらくは兄上や関係者とは距離を置きたいだろう?」
ルディの為というのも本心だが、ルディとフィーナが接する場を持たせたくなかった気持ちもあった。
ルディとフィーナ、二人を考えると、教室からフィーナを連れ出したルディを思い出して、心穏やかではいられなかった。
それが嫉妬だとは、カイルは気付いていない。
「報告書の在り処がはっきりすれば、レイダム領の件でフィーナが関わることもないだろう。
サンザシの実のやりとりも無ければ、関わりを断てる」
フィーナにとってカイルの話は「天の助け」だった。
夏バテでしょうか……。
疲れがひどくて、手が進まず、ストックも底をついて、昨日は更新できませんでした。
すみません。
毎日更新を目指してます。
明日の分のストックは確保できてます。




