33.文献探し 28
◇◇ ◇◇
「マサト……」
側にいる自分の伴魂を見て、フィーナは体を固くする。
自身の伴魂に怯える姿は、本来あるべき主と伴魂の関係が逆転していた。
月夜の暗がりの中。
マサトの白い体毛が浮きたっている。
「へ……部屋に戻るね!」
馬車での一件以来、マサトとはまともに話をしていない。伴魂と主としてのやりとりもない。
気まずさと、叱責を受けるのではとの恐れから、フィーナは逃げるようにその場から離れようとした。
椅子から立ちあがったフィーナを見て、マサトが慌てて声を上げた。
『待……っ! 俺が悪かった!』
唐突な言葉に、フィーナは驚いて動きを止める。
マサトはバツが悪そうな顔で、フィーナに座るよう促し、フィーナは言われるまま、椅子に腰を下ろした。
戸惑うフィーナに、マサトは気まずげな表情で言葉を続けた。
『この前の……馬車での話し。
あれ、俺の八つ当たりだ。
ハロルドの面倒見るの、頼んだのは俺なのに……避けられた面倒事に巻き込んだの、俺なのに、フィーナだけを責めた』
ハロルドの部屋で過ごす時、細部まで注意を払っていた。
それでも相手方が一枚上手だったこと、「してやられた」自分のふがいなさに苛立って、フィーナに八つ当たりしてしまったと、マサトは告げる。
『悪かった』
言ってマサトは深々と頭を下げた。
「……怒って……ないの?」
おずおずと訊ねるフィーナに、マサトは首を横に振る。
『怒ってない』
「『伴魂やめる』とか……思ってないの?」
『伴魂やめる?』
脈絡のないフィーナの言葉に、マサトは眉をひそめて頭を上げた。
視線の先で、フィーナは不安に顔を曇らせている。
「マサトはずっと『考えて行動しろ』って言ってたじゃない。
そうしなかったから……私が深く考えずに、思いついたこと話しちゃったから、こんな大事になってるでしょう?
面倒見きれないって……思ってもおかしくないから……。
マサトが言ってた『考えて物言え』も……ドルジェに戻って、やっとわかった。
みんなが知らないことを、マサトから教えられてるから、私は知ってるんだって」
意識下のやりとりで、マサトの記憶を自分の記憶と勘違いしていたと告げるのは、なぜかためらわれた。
意識下のやり取りは、マサトの記憶まで受ける時もあると知ると、マサトが気にするのではと思えた。
そうした状況を、フィーナは望んでいない。
無意識なのだから、仕方ない。
フィーナが人に話す時に気を付ければいいだけのことだ。
――マサトはずっと、自分の記憶の影響を心配してフィーナに注意していた。
マサトの――伴魂の心配を理解していなかったのは、フィーナの落ち度だ。
愛想つかしてもおかしくない。
話を聞いたマサトは、フィーナの心配に呆れていた。
伴魂は簡単に解除できない。
マサトの場合、糧となる主の魔力の関係、異世界転生者である特異性もあって、主となれる人間は限定されてくる。
それ以上に、これまで過ごしてきた年月と培ってきた関係性から、フィーナ以外を主にする状況を、マサトは考えられなかった。
なぜ伴魂解除を考えるのか。
ありえない心配するフィーナが不思議だったが、ふと、幼少期、伴魂を得られなかった話を思い出した。
他の子は早くに取得している伴魂。
なかなか取得できず、家族に、学校に迷惑をかけたと思っているフィーナは、劣等感を抱いたのではないか――。
その意識が根底にあり続けて、セクルトで首席であっても、希有な能力を発揮しても、自身の評価でなく「伴魂が珍しいから」「伴魂から教えれられたから」であり、他の人間がフィーナと同じ状況になれば、同じく成せるのだと思っているのでは――。
今さらなことを思い至ったマサトは、フィーナも目に見えてわかるほど落ち込んでいた。
 




