30.文献探し 25
小児校にはザイルとアルフィード、フィーナで訪問した。
校長の許可も得て、ラーザに面談の場を設けてもらい「カジカルとキンラに関する報告書」を見たいと、ザイルが話した。
ラーザは不思議そうな顔をしたが、控えを見せてくれた。
「これです」
ザイルが記憶していたものだと確信を得て、報告書の鑑を模写し、書庫へと戻ったのだった。
報告書の鑑写しをザイルは広げて、それを囲う面々に説明する。
鑑には表題と村、村長名、報告者名が書かれ、数個の枠がもうけられている。
横並びの端の枠には、村印と日付が記載され、ドルジェを統括する郡へ報告した日も記されていた。
ザイルは報告書を受け取った郡の文書を確認し、日付もメモ書きしている。
受理した報告書、さらに上層部に提出した報告書は記録に残しているはずなので、ザイルはそれを追っていけばいいだろうという。
「任せていただければ、私が動きますが?」
それが一番スムーズに行くだろう。
提言したザイルに頼むと、彼は承ってフィーナに声をかける。
満面の笑みを浮かべるザイルに、嫌な予感を感じつつフィーナは「何?」と訊ねた。
「お駄賃は『オムレツ』で良いですよ」
「どこで聞いたのよ…」
オムレツは、数ヶ月前に、マサトに『食べたい』と請われて試したものだ。
ドルジェで調理した時は、ザイルがいない時を確認して作った。
ザイルに知られると、いろいろ面倒だったからだ。
今回、ザイルに尽力してもらうのだから、無下に断れない。
とは言うものの。
(オムレツだけだと、物足りないよね)
とも思う。
ザイルへのお駄賃のはずだが、話を聞いている面々の期待が、フィーナにも感じられた。
自分たちも食べれると思っているのだろう。
時刻は夕刻を迎えている。
今日はターシャが夕食を作り終えているだろう。
ザイルの「お駄賃」は後日にして、今日は探索をお開きにし、ザイルの借家へと向かったのだった。
「フィーナ」
サリアが声をかけてきたのは、食事を終えて皆が入浴を終えて、同室であるアルフィードとフィーナがくつろいでいる時だった。
部屋は三つのベッドが用意されていて、それぞれの寝床でくつろいでいる。
ベッドで大の字になって横になっているフィーナの側で、サリアがそっと囁いた。
「カイルと……何かあった?」
「…………。
…………え?」
強張った体と顔、間のあった返事から、サリアは「あったのね」と確信する。
「お茶を出してくれたあとから、様子がおかしかったから」
告げるサリアに「何の話をしているの?」とアルフィードも興味にかられて側にきた。
「な……何でもないから」
サリアとアルフィードに囲まれて、フィーナはしどろもどろになりながら、そう告げる。
言えない。
言えるわけがない。
王子であるカイルに、はしたないことをしてしまったなど。
しかし、緩急絡めて質問攻めにするサリアに籠絡され、勢い余って白状していた。
「うううう……」と顔を覆って自己嫌悪に陥るフィーナと異なり、サリアとアルフィードは顔を見合わせた。
「それで……カイルは何と言ったの?」
「……慎みを持てって……」
顔を赤らめて、恥ずかしそうに告げるフィーナを、サリアもアルフィードも意外そうに見ていた。




