29.文献探し 24
「鳥獣被害対策の報告書は、内容如何に関わらず、中央に――宰相の元へあげられます。宰相は報告書を取りまとめ、陛下に上程すると聞いています」
「ガブリエフに書類が届いていなかったのか?」
カイルの発言に、サリアは緩く首を横に振った。
「その時期、お父様は宰相ではなかったから……」
「――フォールズか」
渋面でカイルが吐き捨てる。
フォールズの怠惰は、広く知られていたようだ。フォールズなら、国王への報告を怠るのもありえるだろうと、誰もが思えるほどに。
「もし……おじ様がすべきことをなさっていなかったら……どうなるの?」
こわごわと訊ねるサリアを、カイルは一瞥して目を伏せた。
「なるようになるだけだ」
「おじ様はルディ殿下を推挙する方よ。
もし、おじ様が処理を怠ったものが、結果、ルディ殿下に不利益を講じたのだとわかったら……」
「俺は兄上ではないから、どうなされるかなどわからん。
……サリア。そう聞いてくるのだから、どうなるか、想定は出来るのだろう?」
「……それは……」
俯くサリアに、カイルは「理解できない」とつぶやく。
「フォールズを心配しているように見えるが、勘違いか?
なぜ気にかける?
自分がこれまでにされた行為を考えれば、胸がすくのではないのか?」
「……わからない……わからないけど……。
ブリジットは……どうなるの……?」
「ブリジット? ――ああ、フォールズの娘か」
ブリジットの名を聞いて、カイルは眉間の皺を深めた。
彼女の素行も、カイルの耳に届いている。
ますます「わからない」とカイルは眉をしかめた。
「娘にも煮え湯を飲まされただろう?
まともな授業に成りえなかったのも、娘のせいだと聞いているが」
「それは先生が勝手に――」
「サリア」
語気を強めて名を呼んだカイルに、サリアは口をつぐんだ。
「フォールズの件は、俺たちが考えることではない。
今は報告書を確認するのが先だ。
フォールズが成すべきことを成していたらそれでよし、成していなければ相応の処罰を受けるだけだ。
――自分の行いが自分に返るだけのこと。
当然のことだ」
カイルはフォールズの話題をそこで切って、ザイルとアルフィード、フィーナに小児校教師、ラーザへ報告書に関する問い合わせを繋いでもらうよう指示する。
ザイルとアルフィードは了承し、フィーナもぎこちなく頷いていた。
その間、目を合わせようとしないフィーナを、カイルは怪訝に思っていた。
ラーザは教師と地方役人の二足わらじの仕事をしていた。
もとは役人職一本だったが、小児校の教師がケガで休職した所を「一時的にも」と請われて代役を勤めて以来、本人も望んで教師職を続けている。
役人の仕事は本職一本の時より減らしている。
セクルトに通っていた経験から、中央が関わる案件の、独特なやり取り、書式等、そうしたものの手助けを仕事としていた。
「ラーザは必要な手続きは全てきちんとこなしていました」
アポイントなしで直接小児校にラーザを訊ねると、授業を終えたラーザを含む教師陣が残っていた。




