27.文献探し 21
サリアの観察眼に驚きつつ平静さを装って「そうか?」とだけ告げる。
カイルが戻って少しして、フィーナが書庫に戻った。
フィーナを見た面々は眉を寄せた。
フィーナは青ざめ、ふらふらとおぼつかない足取りで席に戻る。
フィーナの異変に気付いたアルフィードとサリアが、側に行ってどうしたのかと確認していた。
カイルを含める男性面々は、その状況を遠目に眺めていた。
カイルも、先ほど見たフィーナと余りにも異なる様相に驚いていた。
文献が小児校にあるかもと、興奮していたのが嘘のようだ。
フィーナの様子を伺うアルフィードとサリアは、フィーナを気遣う様子が見られるだけで、驚きも興奮も見えない。
(本が小児校にある可能性を告げていないのか――?)
先ほどのフィーナとのやりとりから気まずい面があって、接触を控えていたカイルだが、先に進まない状況にしびれを切らして、三人の元へ足を向けた。
そばに来たカイルに、アルフィードもサリアも顔を上げる。
同じく、顔を上げたフィーナは、カイルを見て、わずかながらもビクリと身を震わせて、萎縮している。
そうしたフィーナの様子に、カイルに目を向けていたアルフィードとサリアは気付かず、面と向かっていたカイルだけが気付いていた。
フィーナはカイルと目が合うと、すぐに視線をそらした。
その態度に、カイルは眉を寄せる。
わけがわからなかった。
――が、今はとにかく、文献探しを優先すべきだ。
「小児校にあるのかもしれないんだろ?」
「「小児校――?」」
同時に呟くアルフィードとサリア。
「あ――」
カイルに言われて思い出したようで、フィーナはおどおどしながらザイルの姿を探した。
「なぜザイル?」と思った面々だったが、フィーナとザイルの話を聞いて、何を聞きたかったか、思い至る。
呼ばれたザイルは「小児校で見たのでは?」と聞かれても「小児校?」と眉をひそめた。
「小児校の図書室に行ったことはありませんが」
「やっぱり?」
ザイルが呼ばれた時点で、アレックス、レオロード、マサトもフィーナの側に来ていた。
フィーナは、ジークの話を告げた。
話を聞いて、ザイルは「ああ」と得心する。
「そう言えば、ラーザに相談を受けたことがありました。
国への報告書の不備がないか、確認してほしいと。
見覚えあったのは、報告書でしたか。
どうりで書庫で見当たらないはずです」
あっけらかんと答えたザイルに。
四六時中本探しに明け暮れた面々は「もっと早く思い出してほしかった!」と誰もが胸の内で思ったのだった。
面々の声に出さない想いを感じ取ったのか、ザイルは「そのころは書庫で文献探しにいそしんでましたから。書庫の文献と並行して見ていたので、勘違いしたようです」と、言いながらフィーナをチラリと見る。
心当たりのあるフィーナは、ザイルと目が合わないように努めていた。
フィーナが話す素振りがないので、ザイルは「よく『この本探して』と使われてたんですよ」とため息を落とした。
ザイル曰く、フィーナの雑多な知識は、ザイルの手助けがあってのものだという。
「そうでなければ、あれほど効率的に知識を得られるわけがないでしょう」
……と。
そう話した後、報告書について話した。
報告書を作成したラーザは、セクルト貴院校卒業生だった。
教師は地方役所の職員で、教師以外にも役所の仕事もいくつか受け持っている。ラーザは貴院校に在籍した関係で中央政権の在り方も知っている。
成果のあった獣害対策は、地方役所を通じて内閣府、ひいては王族に、速やかに報告する決まりを知っていたのだろう。