26.文献探し 20
「学校! 小児校! ジークの弟がね、カジカルの本をね!」
興奮したフィーナは思いつくまま叫ぶ。
驚きつつもフィーナの話から状況を予想できたカイルは「落ち着け」とフィーナをなだめた。
興奮していたフィーナも、カイルに諭され、深い呼吸を促され、高ぶった気を鎮めていた。
ジークから聞いた話を伝えると、カイルも驚きの表情を見せた後、顔を輝かせた。
「本当か!?」
喜ぶカイルを見て。
手伝ってくれている皆も、カイルと同じように喜んでくれるだろうと思えて――フィーナも嬉しくて――。
感極まったフィーナは、ジークと同じように、カイルに抱きついたのだった。
◇◇ ◇◇
カイルの肩に腕を回して、体を寄せて――密着して。
ドルジェでマーサとジーク、二人とじゃれあうように遊んでいた時と同じ感覚で、カイルに抱きついた。
カイルも喜んでくれる。
抱きついて、カイルの体に回す腕と同様、フィーナを抱きしめて、喜びを共有してくれると、なぜか思っていた。
――しかし。
カイルの腕はフィーナの体に回されることなく――フィーナを抱きしめることなく。
強い力で、引き離された。
「え――」
腕を伸ばして距離をとったたカイルは、フィーナの肩をつかんで顔を伏せて、何か言っている。
「――…………て」
「え?」
「慎みを持て!」
叫んで突き放すようにフィーナから手を離し、踵を返して書庫へと足を向ける。
手を離されたフィーナは、よろけて床に座り込んだ。
背を向けて、書庫に戻るカイルの後ろ姿を――髪の隙間から見えた赤く染まった耳を――呆然と見ていた。
――慎みを持て。
カイルの言葉と彼の行為を思い返して、フィーナは自分の軽率な行動に思い至る。
ザイルやジークと同じように接してしまった。
彼は王族だと言うのに。
本来、フィーナとは軽々しい会話もできない関係なのに、軽率に抱きついてしまった――。
自分の浅はかな行為に、フィーナが青ざめている時。
フィーナの家を出たカイルは、勝手口の扉の側で、紅潮した顔を隠すように、その場に座り込んでいた。
突然抱きついてきたフィーナに驚いた。
彼女の体温、柔らかな体、触れる頬と黄金色の髪、鼻腔をくすぐるフィーナが纏う香りを感じて、体が熱を帯びた。
フィーナが自分に抱きつくなどありえないと思っていたのだ。
紅潮する顔を見られたくなくて、カイルは逃げるようにその場を後にした。
戸口の扉を閉めると、途端、足の力が抜けて、ずるずると壁にもたれながら座り込む。
戸口側に座り込んで、立てた膝、顔と体に回す腕で、ぎゅっと体を小さくする。
鼓動が早鐘を打っていた。
数日前、バルコニーで寄り添うフィーナとザイルを見て、二人の信頼の深さを感じた。
今日は、昔から親しいと思われる同い年の男性に、抱きついていた。
感極まった行為だと、カイルもわかっているものの、言い知れない胸のくすぶりを感じていた。
そのフィーナは、今度は打開策を見いだせた喜びでカイルに抱きつく。
フィーナはカイルと忌憚なく接しているが、心の奥底では一線を引く相手と見ているだろうと、カイルは考えていた。
だから、ザイルや幼馴染の男児のように、気安い態度はとらないだろうと――。
そう思っていたところへのフィーナの行為に、激しく動揺した。
動揺しつつ、フィーナがザイルや昔馴染みの二人のように、気心の知れた仲だと思っていると感じて、気が高揚したのも事実だ。
紅潮する顔を気取られぬよう、体の熱が引いてから平静を装って、カイルは書庫に戻った。
戻ったカイルを見て、サリアが首を傾げる。
「何だか嬉しそうだけど……」




