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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第六章 フィーナとドルジェと市井の生活と
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26.文献探し 20


「学校! 小児校! ジークの弟がね、カジカルの本をね!」


 興奮したフィーナは思いつくまま叫ぶ。


 驚きつつもフィーナの話から状況を予想できたカイルは「落ち着け」とフィーナをなだめた。


 興奮していたフィーナも、カイルに諭され、深い呼吸を促され、高ぶった気を鎮めていた。


 ジークから聞いた話を伝えると、カイルも驚きの表情を見せた後、顔を輝かせた。


「本当か!?」


 喜ぶカイルを見て。


 手伝ってくれている皆も、カイルと同じように喜んでくれるだろうと思えて――フィーナも嬉しくて――。


 感極まったフィーナは、ジークと同じように、カイルに抱きついたのだった。




       ◇◇       ◇◇




 カイルの肩に腕を回して、体を寄せて――密着して。 


 ドルジェでマーサとジーク、二人とじゃれあうように遊んでいた時と同じ感覚で、カイルに抱きついた。


 カイルも喜んでくれる。


 抱きついて、カイルの体に回す腕と同様、フィーナを抱きしめて、喜びを共有してくれると、なぜか思っていた。


 ――しかし。


 カイルの腕はフィーナの体に回されることなく――フィーナを抱きしめることなく。


 強い力で、引き離された。


「え――」


 腕を伸ばして距離をとったたカイルは、フィーナの肩をつかんで顔を伏せて、何か言っている。


「――…………て」


「え?」


「慎みを持て!」


 叫んで突き放すようにフィーナから手を離し、踵を返して書庫へと足を向ける。


 手を離されたフィーナは、よろけて床に座り込んだ。


 背を向けて、書庫に戻るカイルの後ろ姿を――髪の隙間から見えた赤く染まった耳を――呆然と見ていた。


 ――慎みを持て。


 カイルの言葉と彼の行為を思い返して、フィーナは自分の軽率な行動に思い至る。


 ザイルやジークと同じように接してしまった。


 彼は王族だと言うのに。


 本来、フィーナとは軽々しい会話もできない関係なのに、軽率に抱きついてしまった――。


 自分の浅はかな行為に、フィーナが青ざめている時。


 フィーナの家を出たカイルは、勝手口の扉の側で、紅潮した顔を隠すように、その場に座り込んでいた。






 突然抱きついてきたフィーナに驚いた。


 彼女の体温、柔らかな体、触れる頬と黄金色の髪、鼻腔をくすぐるフィーナが纏う香りを感じて、体が熱を帯びた。


 フィーナが自分に抱きつくなどありえないと思っていたのだ。


 紅潮する顔を見られたくなくて、カイルは逃げるようにその場を後にした。


 戸口の扉を閉めると、途端、足の力が抜けて、ずるずると壁にもたれながら座り込む。


 戸口側に座り込んで、立てた膝、顔と体に回す腕で、ぎゅっと体を小さくする。


 鼓動が早鐘を打っていた。


 数日前、バルコニーで寄り添うフィーナとザイルを見て、二人の信頼の深さを感じた。


 今日は、昔から親しいと思われる同い年の男性に、抱きついていた。


 感極まった行為だと、カイルもわかっているものの、言い知れない胸のくすぶりを感じていた。


 そのフィーナは、今度は打開策を見いだせた喜びでカイルに抱きつく。


 フィーナはカイルと忌憚なく接しているが、心の奥底では一線を引く相手と見ているだろうと、カイルは考えていた。


 だから、ザイルや幼馴染の男児のように、気安い態度はとらないだろうと――。


 そう思っていたところへのフィーナの行為に、激しく動揺した。  


 動揺しつつ、フィーナがザイルや昔馴染みの二人のように、気心の知れた仲だと思っていると感じて、気が高揚したのも事実だ。


 紅潮する顔を気取られぬよう、体の熱が引いてから平静を装って、カイルは書庫に戻った。


 戻ったカイルを見て、サリアが首を傾げる。


「何だか嬉しそうだけど……」






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