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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第六章 フィーナとドルジェと市井の生活と
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24.文献探し 18


「時々は帰ってたんだけど……タイミング悪くて、会えなかったね。

 私も会いたかった。

 今日会えて、すっごく嬉しい」


 手をとって告げるフィーナに、マーサは目を潤ませた。


「私も……会いたかった……っ!」


 言ってマーサはフィーナに抱きつく。


 フィーナもマーサに抱きついた。


「マーサ~~~~!!」


 感慨にふける二人を、ジークは小さく息をついて見ていた。




 それからマーサは、自分の悩みをフィーナに告げた。


 念願の花屋で働けるのは嬉しいが、知らなかった地道な仕事が多く、それが体力を必要とするため、力仕事が出来ていないのが悔しいという。


「重いもの、持てるよう頑張ってるけど、すぐにできることじゃないから」


「それはそれで頑張って、他にマーサができることを見つけていけばいいんじゃないかって言ってるんだけどな」


 ジークはマーサの相談に乗っていたようで、詳しい話も知っていた。


 フィーナは花屋の詳しい仕事を知らない。


 マーサを励ましたいが、どう言えばいいのかわからないながらも、自分が感じたことを告げた。


「お母さんに、花束を贈った時。マーサも一緒に考えてくれたでしょ?

 その時、花言葉をマーサが教えてくれたじゃない。

 それをね、お母さんに話して贈ったら、すごく喜んでくれたの。

 選んでくれた花に、そんな意味があったのね。……って。

 マーサにお花のお仕事、合ってるって思う。

 つらいのに、無理に続けろとは言わない。

 ……だけど……もう少し、頑張ってみない?

 マーサは本当は続けたいんでしょう?」


 マーサは表情を強張らせ、つらそうにしながら、小さく頷いた。


「もうちょっと、頑張れるかな?

 『もうダメだ』って思ったら、やめてもいいから。

 誰かに頼りたい時は、私、すぐ戻ってくるから」


 マーサの手を握りしめて告げるフィーナに、マーサは目に溢れそうな涙を溜めて頷いた。


「大丈夫。マーサは大丈夫だよ。

 がんばってるもの。

 私は味方だからね。

 覚えててね」


 マーサに腕を回して抱きしめて、あやすように肩をたたく。


 マーサはフィーナの肩口に額をあてて、涙をこぼして何度も頷いていた。


 そんな二人の様子を、ジークは静かに見守っていた。


 


        ◇◇       ◇◇




 マーサは数時間、お店に無理を言って抜けさせてもらったため、戻らなければならない。


 ジークは先に花屋の主人に事情を話した。


 フィーナとマーサの仲の良さは、ドルジェの村中に知られている。中児校卒業以来、二人が会えていないと知った花屋の主人が気を利かせて、数時間の休みをくれた。


 花屋の主人が了承したのを確認して、マーサを店から連れ出し、道すがらフィーナが帰ってきてると話したのだと言う。


「迷惑かけられないって、戻ろうとしたけどな」


 マーサがそう言うだろうと、ジークは想定していた。


 だからこそ、花屋の主人に先に了承を貰ったのだ。


「花屋の主人が許さなかったら、諦めたけどな」


 ジークは肩をすくめたが、許可が得られる確証があったのだろうと、フィーナもマーサも思う。


 余計なことを仕出かすジークだが、細やかなことに目が届く。


 ジークの機転もあって、マーサと久しぶりに会えたのだから、感謝しなければならないだろう。


(マーサだったから、特にだろうけど)


 ジークの様子を見ていると、以前と変わらずマーサに思いを寄せているのがダダ漏れだ。


 フィーナは何とも言えない、口の端がふゆりと緩む、体がむずがゆくなる感情を抱きながら、二人のやりとりを見ていた。


「そう言えば……」


 と、仕事に戻ろうと椅子から立ち上がったジークがフィーナに訊ねる。


「あんな大人数で、何探してんだ?」


「それは――」


 フィーナは詳細は省いて、カジカルがキンラの花の香りを嫌う本を探しているとだけ話した。


「それなら、小児校で見たけど」


 話しを聞いたジークが、平然と告げる。


 思ってもいなかった返事に、フィーナは意味を理解するのに時間を要した。


「――え?」


「フィーナが探してるヤツかわかんないけど、確かあったよ、小児校に」


 まさかの話に、フィーナは混乱した。


「え!? で、でも私、見たことないよ!?」


 小児校、中児校とも、図書室に通い詰め、自他共に認める「主」とされていたフィーナは、興味ある動植物に関する本は網羅している自負があった。


 それを抜きにしても、ザイルが見たというから、エルド家の書庫にあるのだと思っていた。





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