23.文献探し 17
りんごは一煮立ちさせて、風味と果汁を薬茶に抽出させ、オレンジは果汁を搾って、冷ました薬茶に投入した。
果物を主とする薬茶は、火がついたままの竈から鍋を上げて、果汁を投入した。
「あれ? 竈の火、消さないの?」
「竈の火?」
訊ねるジークに「何のこと?」とマーサが不思議がる。
「竈から上げた方が、早く冷めるから」
フィーナはそう話して、詳しい説明は避けた。
竈の火の消し方。
フィーナはセクルトに入学する前から――ドルジェにいたころから行っていた。
ジークの驚きを目の当たりにして――自分の特異性を感じて――体が強張る恐れを抱いてしまう。
フィーナにとって普通のことが、世間一般でそうでない。
なぜ、そうするようになったのか。
(マサトの……影響?)
そう認識するのが怖かった。同時にマサトの影響が、自分でも知らないうちに生活の隅々に発生している事態を、恐ろしく感じていた。
そうした思いを胸の奥に抱きつつ、今は薬茶作りに専念する。
ジークとマーサに手伝ってもらったおかげで、三種類の薬茶を比較的早く作り終えた。
書庫に持っていく前に、リオンとロアに「おすそわけ」を提供した。
嬉々として薬茶を口にする二人を見て、ジークとマーサが顔を見合わせた後、おずおずと口を開いた。
「私たちも……もらっていい?」
多めに作っていたので、フィーナは快諾した。
こわごわと口にした二人は、驚きの表情を浮かべる。
「まずくない」
「おいしい」
二人曰く「前飲んだ時は、薬みたいに苦くてまずかった」。
言われて、フィーナも思い出した。
薬茶を作り始めたのは、両親をまねてのことだ。
その実験台となったのが、ジークとマーサだった。
二人は「青臭くて苦くて美味しくない」その薬茶しか知らない。
改良を重ねて飲みやすくした薬茶を飲んだことがなかった。
薬茶と言いつつ、薬の作用は抑えている。
両親から「薬は互いに作用する。他の薬を処方された際、薬茶の効能が強すぎると体に悪い影響があるかもしれないから、日常的に飲むものに、強い薬効を含めない方がいい」との助言をうけて、体への影響は少ないものの、気分転換になるものを主体にしていた。
薬茶を作り終えたものの、フィーナ一人で運ぶには困難だ。
アルフィードに相談して、ザイル、アレックス、レオロード、カイルの承認と許可の元、ジークとマーサにも運び入れを手伝ってもらった。
ジークとマーサ、二人の身元はアルフィードとザイルが保証してくれた。
ジークとマーサは恐縮しきりで、貴族籍の面々と顔を合わせないよう、うつむいて作業した。
書庫へのお茶出しを終えたフィーナは、後はアルフィードに頼んで、ジークとマーサ、二人と自宅で話しこんだ。
マーサとフィーナ、二人とも共に久しぶりに会える互いに感慨ひとしおで、昔を懐かしんで話に花を咲かせた。
時折、ジークも交えて互いの近況報告を兼ねる。
「フィーナは、どう?」
「……ドルジェといろいろ違うから……慣れるのに大変。慣れるとも思えないし」
「フィーナなら大丈夫よ。
今だって、一緒に作業されてるでしょう?」
頷くフィーナに、マーサは笑みを浮かべた。
「よかった。貴族籍の方々とうまくやれるのか、心配だったから」
「アル姉だったら、その辺のこと、うまくできるだろうけどさ。
フィーナ、そういうの苦手じゃん。
マーサと二人で心配してたんだ。
なかなか会えなかったけど、大丈夫かなって」