22.文献探し 16
◇◇ ◇◇
実家に行くと、店のカウンター側でマーサが所在なさげに立っていた。
リオンとロアは、来客応対している。
家に続いている店の裏口から飛び出したフィーナは「マーサ!」と声を上げた。
マーサがビクリと、体を震わせる。
桃色の髪を揺らして振り向いた先に居たフィーナを見て、目を丸くした。
「フィー……」
「マーサっ!」
叫んでマーサに駆け寄ると、フィーナはマーサに抱きついた。
驚くマーサは戸惑いを滲ませている。
村人である店内の客も、リオンとロアも、フィーナとマーサの仲の良さを知っているので、微笑ましく見ていた。
抱きついたフィーナはすぐに体を離すと、マーサについてきたのだろう、そばにいるジークを確認して、二人に叫んだ。
「お茶煎れるの、手伝って!」
唐突な話に、マーサとジークは「え?」と目を瞬かせたのだった。
三種類のお茶を人数分準備するため、大きめの鍋三つでお湯を沸かした。
薬屋として薬を煮出す作業があるので、実家の竈は四つ、作業口がある。
フィーナの声を聞いたリオンとロアが、こっそり「おすそわけでいいから」と自分たちの分もと主張した。
量が多くなると、お湯を沸かすだけでも労力がかかる。
ジークもマーサも、幼いころからフィーナの家に遊びに来ていたので、家の使い勝手は把握している。
マーサとジークにお湯沸かしとポットとカップの準備を頼んで、フィーナは薬茶の選別と合わせる香料、甘味料を準備した。
薬茶に合わせる果物がないのに気付いて、マーサに「りんごとオレンジ」を数個、買ってきてほしいと頼んだ。
マーサが青果店に買い物に行っている間、フィーナはジークに、ロアに「ミントを一束もらってきて。お茶に使うって言えばわかると思うから」と告げる。
ジークは言われるまま従ってくれた。
先にジークが戻ってきた。
ロアに「お茶で使う」と伝えていたので、洗浄などの下処理と、茎を覗いて葉だけ摘み取ってくれている。
(さっすが、お母さん!)
フィーナは意を汲んでくれた母に感謝した。
湯が沸いた鍋には、それぞれ、茶葉を煎れて煮出している。
煮出た色と時間で頃合いを見て、火を止めた。
「疾風遊戯」
竈内に限定して、瞬発的な突風を起こし、竈の火を消し、荒熱をとる。
もう一つの鍋も、同じように火を消した。
マーサの帰り待ちの鍋は、切った果物を入れて一煮立ちさせたあと、火を消す予定だ。
作業の目途がついて、ほっと安堵したフィーナは、ふと感じた視線の先に目を向けて驚いた。
作業を見ていたジークが、フィーナと同じく驚きの表情を見せている。
「さっきの……魔法?」
「え……うん……」
「やっぱ、すげーな! 貴族籍の学校って!
竈の火を一瞬で消しちまう魔法とか教わるんだ!」
興奮するジークに、フィーナはわずかな体の強張りを感じつつ、苦笑した。
「魔法も……いろいろあるから、使い方次第だよ。
竈の火を消す魔法なんてないの。ちょっとした応用だよ」
「へぇ? どういうの? どうやったの?」
「……ごめん。上手く説明できない」
「ははは」と渇いた笑いを浮かべるフィーナに、ジークは「教えてくれたっていいだろ?」と食い下がる。
マーサが帰って来たのはその時だった。
そこでジークとの会話は終了した。
マーサが準備した果物を、フィーナとマーサが切り分ける。




