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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第六章 フィーナとドルジェと市井の生活と
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21.文献探し 15


 マーサにも会いたいが、見習いは学校と同じく、週末休みが基本だ。


 次の機会にと諦めて、フィーナは文献探しに専念した。


 三日目、四日目も黙々と作業を続ける。


 成果の見えない作業と、残された日数に焦りと苛立ちが募る。


「どうしてどの本か覚えてないの!?」


「私に八当たりですか?」


 癇癪を起して「うがーっ!」と叫ぶフィーナに、ザイルも不機嫌を露わにする。


 あとでフィーナも反省して、お詫びとして、メレンゲをザイルだけにそっと差し入れた。


 マヨネーズを作った時に余った卵白で作っていた。


 メレンゲは卵白を泡だて、砂糖で味付け、香料で香りづけしたものを竈で焼いていた焼き菓子だ。


 作れた量が少なかったので、リオンとロア、両親に差し入れていた。


 まだ余りがあると聞いて、ザイルにだけ詫びの品に渡したのだ。


 ザイルは不満そうだったものの、これまで食べたことのない焼き菓子への誘惑に負けて、許してくれた。


 文献探しの期限は一週間。


 フィーナとアルフィードは「実家の用で」と申請しているので、数日の延長はどうにかなるという。


 他の面々は、偽りの理由、ドルジェでない場所への休暇と申請しているので、延長は難しかった。


 悶々としていた時、アルフィードがフィーナの元に足を運んで、そっと耳打ちした。


「お母さんから伝言。マーサが来てるそうよ」


「……え……?」


 驚いて、フィーナはアルフィードをまじまじと見つめた。


 今日は平日だ。


 それなのに来ているということは、休みをとってのことだろう。


 見習い時期は、週末の休み以外、休みをとりにくいと聞いているのに――。


 会いたい。


 返事を聞かずとも、アルフィードはフィーナの答えをわかっていた。


 ついっと周囲を見渡して潜めた声のまま


「みんな、疲れているみたいだから、薬茶を準備してもらえないかしら。

 ミント系の爽快感があるもの、柑橘系の瑞々しいもの、花の蜜を加えた甘みを強調したもの。

 大きめのポットにそれぞれ煎れて、カップを多めに準備してもらえれば、各人、好みの物に口をつけるわ。

 飲み比べもできるし。

 ……皆がお茶をしている間に、マーサとゆっくり話せるでしょう?

 飲み比べするなら、いつもより時間がかかるだろうし」


 文献探しはフィーナの為に行われている。


 なのに、当のフィーナが「久しぶりの友人だから」と作業を中断はできない。


 中断してもおかしくない理由を、アルフィードが提示してくれた。


 ねぎらいと礼を込めて、フィーナが薬茶を準備する。


 休憩を兼ねて、面々が薬茶を口にする間、フィーナはマーサと話してくればいい。


 アルフィードの提案に、フィーナは歓喜に震えた。


 おそらく、マーサは母ロアの元に行ったのだろう。


 ジークから話を聞いていて、無遠慮に書庫に入れないとわかっている。


 ロアはアルフィードに相談した。


 思慮深いアルフィードなら、フィーナより上手く立ちまわってくれるのではと思って。


 実際、アルフィードはとりなす案を示してくれた。


 マーサとフィーナの気持ちを汲みつつ、フィーナに尽力してくれる面々の気を害さないように。


「さすがお姉ちゃん!」


 叫んで、フィーナはアルフィードに抱きついた。


 声を上げたフィーナに、驚いた視線が集まる。アルフィードも唐突に抱きつかれて驚いている。


「すぐ準備するね!」


 書庫を飛び出すフィーナにあっけにとられていた面々が、どういうことなのかと、アルフィードに目で問い掛ける。


「皆さんが疲れているだろうから、お茶の準備をするそうです。

 ちょっと変わった趣向を提案しましたけど」


 フィーナの薬茶を聞いて、どんよりとしていた面々の覇気がわずかだが上向いた。





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