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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第六章 フィーナとドルジェと市井の生活と
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17.文献探し 11


「その料理が、これまでにないものなのが問題なのです。

 ――あなたも、今回の件で身に染みたでしょう?」


 レイダム領の件で、皆が奔走しているのは、フィーナが口にした、不用意な話が発端だ。


 唇を引き結び、両手に力を込めて俯くフィーナに、ザイルが静かな口調で訊ねた。


「マサトと――何かありました?」


「――マサトから……聞いてないの?」


「はっきりとは何も。

 二人の様子がおかしいので、何かあっただろうとは思っていましたが。

 ケンカにしては、フィーナからの愚痴を一向に聞かないので、これまでと状況は違うのかとは思っていました」


「変わらないよ。

 マサトに、すっごく怒られて――呆れられた」


 俯いたままつぶやいて、椅子に置いている手を、ぎゅっと握りしめた。


 ドルジェにいるころも、マサトとケンカしては、ザイルに愚痴をこぼしていた。


 ドルジェにいた頃のフィーナにとって、ザイルはマサトの秘密を共有している唯一の人だった。


 だから、どうしても頼ってしまう。


 弱音を、吐いてしまう。


「マサトが、どうしてあんなに口うるさいか、わかってるようで――わかってなかった。

 ……今さらだけど……レイダム領の件で、ようやくわかったって感じで。

 そんなんだから、マサトがめちゃくちゃ怒ったの」


 ――自己評価が低い。


 告げたマサトの声が、耳奥に残っている。


 ――もっと気をつけろ。


 マサトに、そう言われてきた。


 フィーナは首席である成績、周囲から神聖視されているアルフィード、王族のオリビアやカイルとの関わり等、普通でない状況を認めろと言われていると思っていた。


 しかしターシャの言葉でハッとした。


 自分の知識の中に、自分のものでないもの――マサトの記憶が混ざっていると気づいた。


 愕然として――恐ろしかった。


 グラタンのチーズの件が、まさにそれだった。


 気付くと、マサトの忠告が、別の意味合いを持って見えた。


 知識の根源が何か。


 理解したうえで話すようにと、マサトは言っていたのだ。


 ルディにカジカルの件を話した時も、キンラについて話す前に「なぜ知っているのか」思い起こせば「マサトから得た知識」との認識の元、もっと上手く対処出来たかもしれない。


 ほんの数秒。


 振り返って考える時間をおざなりにした結果、周囲に迷惑をかけている。


 何より、自分の身を危うくしてしまった。


「マヨネーズもね。私、知ってるの。

 ここでない場所でマサトが食べた、味とか触感とか。

 作る時の手の感覚とか、見た目とか。

 マヨネーズって、マサトの身近にあったものなの。

 その作り方って、いつも食べるものの再現だから、作る過程のいろんなタイミングってわかりやすいのね。

 卵黄とお酢を混ぜて、油を入れるタイミングとか、どんなふうになればいいかとか、混ぜてる時に伝わる手の感触とか。

 ……できて当たり前だよ。

 出来上がりがどういうものか、知っているんだから」


 上手く作れなかったザイルとロアは、数えるほどしか食したことがないため、どういったものかの概念がおぼろげだったのだろう。


 改めて自分の特異性を認識した。


 話を聞いていたザイルは、ゆっくりと体を起こすと、フィーナに両腕を開いて見せた。


 何かを促すザイルに、フィーナは首を傾げる。


「胸なら、いつでも貸せますよ」


 ――幼いころ。厳しいマサトの鍛錬に癇癪を起した。


 マサトとケンカして、ぼろぼろ涙をこぼして「自分は悪くない。厳しすぎるマサトが悪い」――そう思いつつ、怒ってどこかに行ってしまったマサトの、自身の伴魂の不在に心細さを覚えつつ。


 そうした時、側にいたザイルに愚痴をこぼして、心細さを埋めるように、彼に抱きついて、顔をぐしゃぐしゃにしながら、ボロボロ涙をこぼして、声を上げて泣いていた。





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