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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第六章 フィーナとドルジェと市井の生活と
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15.文献探し 9


 手間がかかること、この上ないが、この作業を行ったものと行わなかったもののを食した時の違いを知っているので「時間があるのだから手間をかけよう」と思うのだ。


 食べるのなら、おいしいものを食べたい。フィーナ自身が。


 ザイルに「ターシャに調理法を学んでほしいのか」とも訊ねていた。


 ザイルは目を瞬かせて「できるのですか?」と逆に聞いてくる。


「わからないけど……」


「教えられるとはっきりしてないのですね。でしたら無理でしょう」


 きっぱりと言い切るザイルに、フィーナの方が驚いてしまう。


「先ほどの話にもありましたが、同じ材料、同じ工程を辿っても、フィーナが作るものを再現できません。

 薬茶しかり、マヨネーズ然り。

 フィーナが感覚的に感じ取って微調整が必要なものは、教えようがないのでしょう」


 そう言われて、ふと気が付いた。


「もしかして……ザイルが自分で調理しないで、私に頼むのって……」


「できないわけではないのですよ。

 フィーナが作ったほうがおいしいから頼んでいるのです。

 それでも、どうしても食べたい時は、自分で作ってますよ」


「……そう……」


 ザイルがフィーナに調理を頼んでいたのは、ザイルが料理ができないからだと思っていた。


 ザイルの話を聞いて、フィーナは気付いたことがある。


 マサトはフィーナの伴魂だ。


 意識下のやり取りも可能で、料理に関しては口では説明しにくい部分を、意識下でやり取りしていた。


 映像、調理中感じる手の感触、味――。


 それはどれも、むこうの世界の記憶だ。


 向こうの料理の味と工程を知っているマサト、こちらの世界の食材を知っているフィーナ。


 作られる料理は、伴魂と主で成し得たものだ。


 食材や調味料の違いで、完全な再現はできないが、マサトの満足するものはできている。


 料理にマサトの前いた世界を、ターシャとのやり取りからも感じた。


 長方形のチーズを薄くスライスして、それを糸状に切る。


 具材を炒め、ホワイトソースと絡めて、皿に盛って糸状にしたチーズを振りかけた。


 チーズを乗せる様を、ターシャは物珍しそうに見ていた。


 台所には竈もあった。


 できたてを出せるように、食事の時間から逆算して、窯に小さな薪をくべて、窯の温度を上げておく。


 熱が行き渡った頃合いを見て、人数分のグラタンを入れて、火を通す。


 食材にはしっかり火を通しているし、炒めた具材とホワイトソースをまんべんなく絡めて、置き時間を利用して味もなじませているので、料理が温まって、上のチーズが溶けて焦げ目がつけばいい。


 ホワイトソースを作る間に、ターシャには料理をいくつか作ってもらった。


「口に合うでしょうか」


 ……と、貴族籍面々を気にしていたが「そこは大丈夫」と安心させる。


「お昼も大丈夫だったでしょう?」


 珍しい料理もあったが、素朴なものもあった。


 その様子を思い出し、ターシャは少し安堵の表情を見せた。


 山菜の素揚げ、ターシャ特製具材たっぷりのスープ。


 そしてターシャが「おいしい」と太鼓判を押すパン屋のバケット。


 それらをテーブルに並べているところへ、面々が戻ってきた。


 リオンとロアは自宅での食事だ。


 それぞれが身支度を整える間、フィーナはグラタンを竈から出して、テーブルに並べる。


 いい具合にチーズが溶けて、焦げ目もついている。


 それを見たターシャが「……あら」と少し驚いた声を出した。


「チーズ……溶けて広がっているのですね」


「……え?」


 言っている意味がわからず、フィーナは首を傾げる。


 ターシャは「余計なことを言っただろうか」と戸惑いつつ、思ったことを話してくれた。





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