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猫と月の夜想曲~猫に転生した異世界転生者は脇役です~  作者: 高月 すい
第六章 フィーナとドルジェと市井の生活と
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14.文献探し 8



      ◇◇         ◇◇



『向こうと成分や育て方、精製法が一緒だったら、名前一緒なんだな』


 フィーナの伴魂、マサトはそう言っていた。


 玉ねぎとしめじなど、告げた食材を準備しながら、無心で作業に取り掛かっていた。


 ……否。


 作業には意識を向けていないが、考えごとは続けている。


 ザイルが「ターシャと一緒に料理を作ればいい」そう言ったのは、フィーナのレシピをターシャに習得させたかったのだと、フィーナは思った。


 だから気まずいながら、マサトに声をかけて事情を話し、確認した。


 作って欲しくない料理――他の人に知られたくない料理、調理法があるなら教えてほしいと。


『別に、いいんじゃね?』


 マサトはそっけなく、それだけ告げると、ふいっとその場から離れる。


 ――別に、いいんじゃね?


 マサトらしい言葉だが、フィーナにはその真意が見えなかった。


 ザイルには知られてもいいと思っているのか。


 知られても、再現できないから、真似などできないと思っているのか。


 もんもんとしながら、フィーナが下した決断は「教えないが、料理課程を隠しはしない」だった。


 仕事として調理場に立っていたターシャは、飲み込みが早い。


 フィーナがマサトに教えてもらった、国では見たことのない調理法、概念に戸惑いは見せたが、はなから否定せず、再現しようと試みている。


 彼女を見て、ザイルらしいな。……とフィーナは思った。


 ターシャはザイルのお眼鏡にかなった女性なのだろう。


 ザイルと長く接しているフィーナには、彼がどのような人物を好むのか、何となく理解できた。


 理屈として説明できないが、接する中で「あ。ザイルなら気にいる」とふと思ってしまう。


 フィーナを「貴族籍の令嬢」と誤解しているのではと思って、夕食の準備にかかる前にターシャに説明した。


 ターシャはフィーナの身分を理解していた。


 だったらなぜ。とフィーナは不思議でならない。


「あなたの子供よりも年下の私に、敬語は必要ないでしょう?」


 ターシャには夫と二人の子供がいる。


 夫一人の給金だけでは生活が苦しいため、ターシャは結婚前から続けている食堂で調理の仕事をしていた。しかし、持病もちの子供の看病のために休みを取らなければならない状況が続いて、食堂を解雇されたのだという。


 困っていたところを、その食堂に時折、足を運んでいたザイルが、事情を知って雇ってくれたのだそうだ。


 食事だけでなく、家事全般を行う条件で。


 そうした条件ながら、家族の急用には、そちらを優先して構わないとする、ターシャにとっては好条件の話だった。


 ターシャの子二人は、アレックスとレオロード、二人と年が近い。


 なのになぜ、ターシャと同じ市井出身者であるフィーナに、敬語を使うのか。


 フィーナの言葉に、ターシャは不思議そうな顔をした。


「旦那様が大切にされている方々に敬意を払うのは、当然のことでございましょう?」


 その言葉に。


 フィーナもザイルと同じく、ターシャに陥落したのだった。



        ◇◇      ◇◇



 今回、ザイルには助けてもらってばかりなので「何が食べたいか」聞いてみた。


「『グラタン』」とザイルは即答する。


 以前、リーサスの一件があった後「作る作る」と言いながら、そのままになっていた。


「シチューとそんなに変わらないと思うんだけど……」


 思いながら、食材切りをターシャに任せて、フィーナはホワイトソース作りに専念する。


 マサト曰く『こっちの小麦粉は精製が荒い。殻が取りきれてない』らしいので、まずは目の細かいざるで殻や大きな粒子を取り除く作業を行う。





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