10.文献探し 4
「薬の精製法の中にもあるでしょ?
甘味料に漬けておいて、薬効を含んだ液を抽出する方法」
「……ああ」
フィーナの両親の元で学んでいるザイルは、フィーナの言っていることを瞬時に理解した。
理解したが、繋がりがよくわからない。
「甘味料漬けすると、植物によっては、薬効を抽出する過程でお酒になっちゃうものもあるみたいだから」
アルコールは成人になってからと定められているが、アルコール漬けの植物摂取は、食べすぎなければ黙認されている。
ザイルはフィーナの話を聞いて、アルコールが発生しているのかと懸念したが、その後の様子を確認するかぎり、風合いをかんじるだけで、アルコール分はないのだと判断した。
「これなら食べれる」と、サリアも気にいってくれた。
サリアの反応を見て、フィーナも満足げだ。
休憩を終え、面々が作業を開始しようとした時、ザイルが「待った」をかけた。
「提案なのですが」
言って、自身の考えを口にする。
「今日の昼と夜の食事は、フィーナにお願いしたいと思っているのですが、どうでしょう?
……ちなみに。私の手伝いの対価はフィーナの料理を所望する所存です。
私だけでは何ですので、どうせ食べるなら、皆一緒の方がいいのではと思いまして」
「え?」
驚きに目を瞬かせるのはフィーナだけで、同席した面々は誰もがザイルの提案に賛成した。
「ちょっ――、そんなこと、急に言われても……」
ザイルがどんな食事を望んでいるのか、わかっている。
マサトに教えられた料理だろう。
マサトに教えてもらった料理はいくつかあるが、期待されるほど数は多くない。
「家族分なら作ったことあるけど、こんな多人数分の食事なんて、作ったことないから勝手がわからないから」
「大丈夫ですよ。家事を任せる使用人を雇っていますから。
彼女は大所帯の食事準備を経験していますし。
話は通してあるので、フィーナは今まで通り、作ってもらえれば対処しますよ」
「――でも……」
戸惑って、フィーナはマサトに目を向ける。
マサトは用意された薬茶を口にしたあと、テーブル足の隅で、体を丸めて目を閉じていた。
元はマサトに教えられたものだ。
マサトから得た情報を、他人に明らかとするなと、彼は常々言っている。
ドルジェに向かう馬車でのやりとりの件もあって、フィーナは「……マサトがいいのなら」とザイルに告げた。
フィーナとマサトの、馬車でのやりとりを知っている面々は、気まずそうな表情を浮かべた。
ザイルはザイルで、フィーナの物言いと周囲の雰囲気の変化に眉をひそめながら、その場でマサトに声をかけて確認する。
『別にいいんじゃね?』
丸めた体のまま、フィーナの方を見ることなく告げられた言葉に。
フィーナはぎこちない笑みを浮かべて受け入れて、マサトはずっとそっぽ向いていた。
その日の昼食は卵サンドとありあわせの食材でサンドイッチを作った。
フィーナ達がドルジェに来るとわかってから、ザイルは食材を準備していた。
一応、ザイルに「何が食べたいか」聞いたところ、真っ先に「卵サンド」との返事を受ける。
その意味がわかって、フィーナは意外だった。
「まだつくれないの?」
肝となる『マヨネーズ』の作り方は、ザイルも知っている。
フィーナもドルジェにいるころ、マサトに教えられて、いたく気に入ったザイルに手とり足とり、付きっきりで教えたが、どうしても上手く作れないのだとザイルは肩を落とした。
いろいろ、独自の食材が出て来るので補足です。
「クルの実」は梅を参考にしています。
梅を漬ける時は、塩漬け、紫蘇漬けが必要ですが(他にも細かな行程がありますが)、クルの実は酢漬けで梅と同じ風合いとなる設定です。
イメージとしてはピクルス。
梅の砂糖漬け(はちみつ漬けではありません)は、食べたことあります。そういうの、作るの好きな親せきから「試しに作ってみた」ともらったことがありました。
一度、梅干しで作ったものを砂糖漬けにしたんだっけな? どこで砂糖漬けにしたんだっけな?
うろ覚えですが、なぜか梅酒に入ってる梅っぽくて、意外でした。
参考までに。




